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京都の寺院に咲いた池坊のいけばな(2/2ページ)

池坊中央研究所主任研究員 細川武稔氏

2018年7月20日

『東本願寺御花之記』によれば、当初は2月7日に御成がある予定で、近藤春彦が下見に行くなどして生花をいける準備を整えていたが、御成が急遽延期になってしまった。その後、10日に東本願寺の使者が来て、御成は12日に決まったと告げたが、同じ日に知恩院への御成も決まっており、池坊はそこでの立花をすでに請け負っていた。東本願寺は徳川家康の後援で創建された寺、知恩院は京都における徳川家の菩提所であり、ともに上洛した将軍が訪れるべき場所であった。

使者が来た時、外部との交渉全般を担当していた春彦が知恩院に出向いていたため、家元の池坊専正が応対して依頼を一旦断ったが、ちょうどその時春彦が帰ってきて交渉した結果、生花を1瓶のみいけることになった。

翌11日、枳殻邸に飾られたのは、立花1瓶および生花6瓶と記録されている。前日の交渉結果とかなり異なっているが、将軍を迎えるのに生花1瓶ではよくないという判断があったのだろうか。立花は春彦の手になるもので、最終的に専正が「見分」(検分)したものであった。専正は同日に知恩院の立花をたてており、役割が分担されたのである。

このあと、同年7月のいわゆる「蛤御門の変」で六角堂は焼失し、再建されないまま明治維新を迎えることになった。京都の市街地の大半が焼けた結果、材木の値段が高騰したり、政権交替があったために再建の許可を取り直す必要が生じたりするなど、様々な苦難があったようだ。

作品図に名前記載

京都にとって、維新に伴う最大の衝撃は東京遷都であった。千年の都から一地方都市に転落するかもしれないという危機感の中、明治4(1871)年、有志によって京都博覧会が開かれた。新旧の文物を展示したこの催しはある程度の成功を収め、官民一体の組織を整備した上で、翌明治5(1872)年、あらためて第1回と銘打って京都博覧会が開催された。

『博覧会立華之記』によれば、この第1回京都博覧会で池坊への出瓶依頼があった。折しも六角堂では、再建に向けた勧進の意味も込めて本尊如意輪観音像の「為拝」(御開帳)がおこなわれており、住職の池坊専正が多忙だった。よって、近藤春彦と伊勢(三重県)出身の門弟田中圓次郎が、松一色の砂物を作り上げていった。一色とは、作品の主要な部分が一種類の花材で構成されることで、池坊では松をはじめ七つの一色物が定められている。

最終的に専正が仕上げた砂物は、会場となった西本願寺(浄土真宗本願寺派)の対面所に飾られた。書院として国宝に指定されている建築である。版画による作品図が残っており、そこには専正に加え、春彦と圓次郎の名も記されている。

以上、池坊による献華の様子を紹介してきた。池坊が住職を務める六角堂が天台宗の寺院である(現在は単立)一方、献華先の寺院については宗派を問わないことが特徴として挙げられる。これは門弟についても同様であるが、『永代門弟帳』等の門弟の記録を見ると、真宗系の割合が比較的高いように思われる。これは、親鸞が六角堂に参籠し、そこで得た夢告が開宗のきっかけになったことと関係があるのではなかろうか。

今回の展示を準備する中で、家元をそばで支える一人の門弟の活動が明らかになったのは、大きな収穫であった。明治時代初期のものと思われる席札(作品に添えて置く札)の中に、表面に「家元代華」、裏面に近藤春彦の名が書かれたものがある。家元から信頼されていた春彦が、代理として花を担当した証拠である。家元と門弟が一致協力することによって、池坊のいけばなは発展してきたといえよう。

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