専修寺の伽藍配置と御影堂如来堂(2/2ページ)
三重大学名誉教授 菅原洋一氏
さらに御影堂では、東西の余間にも前後に段差を設けるなど、本願寺御影堂に比較して、床の段差が多い。間仕切りと床の段差によって、最も重要な内陣周辺の空間のまとまりは知恩院本堂に類似したものとなっている。この傾向は末寺にも見られ、高田派の仏堂は浄土宗に近い位置にあることがうかがわれるのである。
関東文化の影響と見られる、比較的珍しい装飾的細部も御影堂の特色である。龍の彫刻を用いた正側面の外廻り組物や、向拝と側柱をつなぐ装飾性の強い架構、金箔を下地として鮮やかな色付けを施す向拝周辺の彫刻の彩色などがそれである。
このような御影堂が津藩の強力な支援のもとで完成したのに対し、如来堂は万人講が資金を募り、中断を含む長年月をかけて完成した。入り母屋造り、禅宗仏殿の華やかな外観が特徴で、禅宗様の二重屋根の形式の堂の中では最大級である。如来堂が禅宗仏殿の姿に倣うのは浄土宗でも見られる所で、この点も高田派と浄土宗の近親性を示すものであろう。二重の屋根とした結果、御影堂に規模では下回るものの、棟高は同程度となった。田園に囲まれた家並みの中に御影堂と如来堂が量的な釣り合いをもって並び立つ景観は随所から遠望でき、専修寺の存在感を発揮するものとなった。
外観が禅宗仏堂に倣うとはいえ、如来堂の内部空間には独特のものがある。それは、内陣に面する大間と中陣の中央部に堂内で最も高い天井を掛けて、立体性の著しい内部空間をつくっている点である。如来堂の平面は、一般的な真宗本堂とほぼ等しいものの、このような試みによって、如来堂は禅宗寺院とも異なり、真宗寺院としても異色の内部空間を持つものとなっている。
如来堂のさらなる特色は、上重の主体構造と、外観を構成する化粧の部分を分離することである。この方法は骨組みを先に組み、本来は骨組みに組み込まれるべき壮麗な組物などを、化粧材として骨組みに張り付けるものである。近世建築は建物本体の費用を抑え、その分、彫刻や塗装、金具等の装飾を重視する方向で発展したが、如来堂はその傾向をよく示している。存在感のある二重屋根の外観、華やかな内部空間や密度の高い内外の装飾は、整備の主体である一般門徒の関心にもかなうものと言えよう。
このように、専修寺御影堂と如来堂の形態や内部空間、構造技術や細部意匠には顕著な相違が見られる。それぞれが個性的で優秀であり、特色ある創意工夫もそれぞれの随所に見られる。建立の時期には80年ほどの年月の隔たりのある両堂は、あわせて近世建築の発展方向と到達点をよく示していると言えよう。江戸時代中期以前の両堂を備えた真宗本山寺院は、専修寺以外にない。専修寺の御影堂と如来堂は、我が国の仏教文化において重要な位置を占める、真宗の伽藍の特質を明らかにする上でも、極めて高い価値を持つものとして評価されるのである。