PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
第21回涙骨賞募集 墨跡つき仏像カレンダー2025

SISR国際宗教社会学会2017報告(2/2ページ)

北海道大大学院教授 櫻井義秀氏

2017年12月15日

さて、日本のイスラームに対するメディア的関心は、かつては原理主義、現在はIS(「イスラム国」)などの宗教的過激主義者に限定され、先進国へ移民や難民として流入するムスリムやムスリムの宗教やコミュニティーに関する理解は十分ではない。近年、ニューカマーの宗教への調査研究は進められているが(櫻井義秀・三木英『日本に生きる移民たちの宗教生活』ミネルヴァ書房2012、三木英『異教のニューカマーたち』森話社2017)、ヨーロッパに比べれば圧倒的に少ない。しかしながら、今後の西欧社会や世界宗教の趨勢を見ていく際に、ムスリム人口の増加やムスリム社会の動向に注視が必要である。

2.イスラームとキリスト教の多様性

ローザンヌ大会で発表されたムスリムやムスリム・コミュニティーの研究は数も多く、内容も多種多様である。宗教社会学ではスンナ派とシーア派、ワッハーブ派のような教派や教義の相違よりも、出身国や出身地域、移民・難民として流入した経緯、元の出身階層によるライフスタイルの相違を重視する。また、移民一世と二世、三世のホスト社会への適応程度にも注意する。

その際、キリスト教が文化宗教や特権的宗教(教会税の恩恵がある北欧やドイツ、政権とカトリック教会・正教が強い関係を持つ西欧・中欧・東欧)である地域では、ムスリムを包摂する宗教的多様性が必ずしも国家的アイデンティティーとはならない。つまり、人権上の民族的平等と各種制度上の宗教的平等は同一の地平にない。

また、移民・難民として社会階層の下位から人生を切り拓く人々に対する二級市民もしくは「仕事を奪う低賃金労働者」という一律の視線が、本来多様なムスリム・アイデンティティーに一定の枠をはめ、過激主義を容認する宗教的アイデンティティーを強化することもある。

民族的・宗教的単純化の視線は、キリスト教的多様性によって宥和されるべきである。現在、西欧の地方教会にはブラジルやナイジェリア出身の牧師が浸透し、移民社会においてキリスト教徒のペンテコスタル化が進展している。カリスマ的牧師、神とサタンの二元論的世界観、悪魔祓いによる神癒などは、社会的剥奪状態にある人々を惹きつける。西欧社会において、熱すぎるキリスト教は中間層に受け入れられていないが、リベラルなキリスト教派ほど衰退著しく、非信者化を食い止めることができないでいる。

このような宗教文化間の葛藤を含む報告を聞きながら、日本の多文化主義や宗教的多様性の議論はいささか予定調和的ではないかと感じた。宗教のダイナミズムはきれい事ではない。宗教的理念とは必ずしも関連しない人口圧や社会移動によって宗教は変化していくのである。

『顕正流義鈔』にみえる真慧上人の念仏思想 島義恵氏11月20日

真慧上人について 高田派第十世である真慧上人(1434~1512)は、第九世定顕上人の子息として誕生した。その行実は『代々上人聞書』『高田ノ上人代々ノ聞書』や、五天良空が…

日蓮遺文研究の最前線 末木文美士氏11月14日

1、遺文研究の集大成 近年の日蓮遺文研究の進展には目を見張らされるところがある。とりわけ日興門流に連なる興風談所は、御書システムの提供や、雑誌『興風』及び『興風叢書』の刊…

瑩山紹瑾禅師の俗姓について 菅原研州氏11月5日

曹洞宗で太祖と仰ぐ、大本山總持寺御開山・瑩山紹瑾禅師(1264~1325)の俗姓について、現在の宗門内では「瓜生氏」として紹介されることが多い。しかし、江戸時代までの史伝…

古文・漢文の教育 文化的含蓄を学ぶ意義(11月15日付)

社説11月20日

災害ボランティアの課題 現地のコーディネートが要(11月13日付)

社説11月15日

バイオフィリア 核廃絶への宗教者の姿勢(11月8日付)

社説11月13日
このエントリーをはてなブックマークに追加