PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座

弟子丸泰仙老師ヨーロッパ布教50年に寄せて(2/2ページ)

曹洞宗大乘寺山主 東隆眞氏

2017年3月31日

そもそも、老師は、1965(昭和40)年、遷化直前の澤木興道老師の得度を受けて弟子となった。澤木老師の家風は、悟りの体験を否定した只管打坐に尽きる。澤木老師の遺した坐布、袈裟、法衣を着けて、67(昭和42)年7月、単身シベリアを経由してフランスに到着した。渡仏にあたって、松永安左衛門、原安三郎をはじめ、財界人の援助を受けたという。

そして、十二、三年の間に30万人を超え、常時、十数万人が参禅するに至るという「弟子丸ブーム」を巻き起こした。

フランスに赴いた直接の動機は何か

老師によれば、50歳を過ぎて出家した実業家弟子丸泰雄が、恩師である澤木老師の遺志を継承して、活力を失った日本仏教の現状に絶望し、仏教ないし坐禅を求めているヨーロッパに直接赴いて、坐禅に励みたいという点にあった。

そこで、現在のヨーロッパ文明の特徴、利己主義、知育偏重を指摘し、ヨーロッパ、全人類を救済する運動を掲げた。同時に日本仏教の現状とくに直接かかわっている僧侶の現実を厳しく批判した。そして、禅の本場は日本からヨーロッパに移るであろうとまで記している。実は私も、この点は、まったく同感で、至るところで、その点を話し、書いてきている。

こうして始まった老師の「ヨーロッパ禅協会」は、ヨーロッパばかりではなく、アフリカのモロッコ、アルジェリア、南アフリカ、カナダのケベック地方、ラテン・アメリカのフランス語圏に拡大していった、と記している。

さて、また老師は「誓願」を持つことを強調した。

ひとくちでいえば「誓願」とは、人生に対する、しっかりした目標、理想、生きがいである。仏教の僧侶は、いまや社会事業、福祉事業などキリスト教のまねをして慈善事業にうつつをぬかしている場合ではないと、老師はいう。

また、現代の青年諸君は「人間存在の原点にたちもどって、その最終、最高の使命をみいだし、それを目標に、諸君は現実の与えられた職場を修養の道場として、一歩一歩遠い未来にのしかかっていってもらいたい」という。

これは老師の誓願であったであろうし、いま、私自身の誓願であらねばならない。深く心に秘めたこの思いこそ、仏教者の生きる根源であらねばならない。

いま、弟子丸老師の門流たちは、全ヨーロッパに教化の網を張っている。今後、一層の協力体勢を固めて、仏仏祖祖正伝の正法を展開していっていただく誓願を新たにしていただきたい。

※弟子丸泰仙老師 1914(大正3)年、佐賀県に生まれる。横浜専門学校(現神奈川大)卒。森永製菓、三菱鉱業、スマトラ鉱山開発、松永安左衛門の秘書、アジア協会常務理事などを務め、また臨済宗の鎌倉円覚寺・朝比奈宗源老師、主として曹洞宗の澤木興道老師に師事。後に山田霊林禅師(アメリカの開教総監部総監。駒澤大総長、大本山永平寺貫首)に嗣法した。長野県・清久寺住職。巴里山仏国寺などを開創。全ヨーロッパに開教道場63カ所開設、信者三十余万を数えたという。ヨーロッパ禅協会設立。フランス国際仏教研究所副所長。大乗仏教研究所所長ほか。著書多数。しかし、弟子丸老師の伝記はまだ無い。

日蓮遺文の真偽論と思想史観 花野充道氏7月4日

1、研究者の思想史観 2023年の12月、山上弘道氏が『日蓮遺文解題集成』を上梓された。山上氏の永年の研究成果に基づいて、日蓮遺文を真撰・真偽未決・偽撰の3種に判別して示…

「寺子屋学習塾」で地域社会の再興を 今西幸蔵氏6月27日

社会に構造的な変化 全国の地域社会に危機的な事態が発生している。既存の組織が崩れ、構造的な変化が起き始めているのである。自治会が、子ども会が、PTAが、未だ一部ではあるが…

増上寺三大蔵のユネスコ「世界の記憶」登録の意義と課題 柴田泰山氏6月18日

はじめに 本年4月17日の午後8時過ぎ、浄土宗と大本山増上寺がパリのユネスコ本部に対して共同申請していた「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」が、ユネスコ「世界の記憶」に…

鎌田東二氏逝去 越境する学者が目指したもの(7月4日付)

社説7月9日

ガザ無差別攻撃 武力信仰が支配する世界(7月2日付)

社説7月4日

目には見えない時間 “準備”が生の舞台に結晶(6月27日付)

社説7月2日
このエントリーをはてなブックマークに追加