「核廃棄物」減らせない現実 ― 宗教者提唱すべき人道上の問題(2/2ページ)
平和活動団体「ピースプラットホーム」事務局 森俊英氏
ところで、プルトニウムを含んだ「MOX燃料」は、従来の「ウラン燃料」に比べて放射能が強い。その分「使用済みMOX燃料」を再処理するときには、さらに危険性の高い核廃棄物を生み出すこととなる。こうした懸念は「先のこと……」として放置されているところに「再処理」政策の無責任さがある。
ちなみに、通常の「使用済み核燃料」を再処理するのは、青森県六ヶ所村の工場であり2018年から本格的稼働を予定している。一方、「使用済みMOX燃料」を再処理すべき「第二再処理工場」と呼ばれるものは、まだ具体的な立地計画も示されていない。
「再処理」の概要を述べてきたが、ここで「再処理」の大きな問題点を指摘しておかねばならない。それは、直接処分に比べて「再処理」は、結果的に「核廃棄物」の総量を増やしてしまうということ。
①最初に廃棄すべきと分けた「高レベル放射性廃棄物」
②MOX燃料として使用後の燃料棒からの核廃棄物
③再処理工場で使用される配管・液体が、新たな核汚染物質となる
上記①~③の総量は、直接処分(すなわち「使用済み核燃料」全体を高レベル放射性廃棄物とみなして埋める方法)と比較すれば、約7倍以上になってしまう(注2)。
※なお、再処理工場が稼働すれば、大気中、海洋には放射性物質が放出されることも大きな問題となっている(原子力資料情報室の六ヶ所再処理工場に関する情報ページ http://www.cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho には、「原発1年分の放射能を1日で出す」とある)。
以上、「使用済み核燃料」の処理方法と、それに伴う問題点を概説してきた。原発が生み出す「核廃棄物」を、私たちは、もはや量的に減らすことなどできない。しかも、現在の原子力政策「再処理」では、「核廃棄物」をさらに増やしてしまうことにもなる。
そこで、この問題を共有する宗教者に、私は以下3点を呼びかける。まずは、青森県に足を運んでもらいたい。六ヶ所村がある下北半島における、全国からの「使用済み核燃料保管」、そして「再処理工場」の現実を知るために。次に、青森県まで行けなくても、東京にあるNPO法人:原子力資料情報室(http://www.cnic.jp/topics)が市民への情報センターとして活動しているので、ぜひアクセスを。そして三つ目は、身近に政治家がいれば、この問題への考えを話し合ってもらいたい。なかでも国政に携わる人ならば、「再処理」計画の実情にも詳しいことであろう。
今、宗教者は当問題に強い関心を示さねばならない時にある。再度記すが、六ヶ所村の再処理工場の本格稼働は2018年を予定している。もちろん、再処理をはじめ原子力施設で働いている人が多くいる状況において、政策の転換を考えることは大変なことである。しかし、だからと言って「核廃棄物の総量増加」の問題を容認したり、6の※で記したような青森県の自然環境が放射性物質により、危ぶまれる懸念を看過することができようか(青森県の市民団体は1989年から提訴:注3)。
結びに、最も根源的な問題点を挙げて拙稿を閉じることとする。それは、原発で今も、「使用済み核燃料」が生み出し続けられていることである。「再処理」を行うか否かに関わらず、もうこれ以上に生み出してはいけないのは明白なこと。子孫に残してしまう負の遺産「核廃棄物」を、減らせないことが分かっていながらも、さらに増やすことは人道上の罪である。
現在、各地の原発では様々な視点から再稼働/停止の判断が行われている。しかし、そこに「もはや減少させることができない核廃棄物を、さらに産出してはいけない」という「人道上の判断」が入らねばならない。子孫の時代を見据えて、そうした「人道上の問題」を扱う専門家は宗教者であることは言うまでもない。
(注1)『Enelog』臨時特集号、2016年3月、電気事業連合会発行。http://www.fepc.or.jp/enelog/ からダウンロード可
(注2)六ヶ所再処理工場の事業申請書からの試算では約7倍、他の試算値はそれ以上
(注3)『六ヶ所再処理工場 忍び寄る放射能の恐怖』第3版、2012年6月、核燃料サイクル阻止1万人訴訟原告団発行