PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

「核廃棄物」減らせない現実 ― 宗教者提唱すべき人道上の問題(2/2ページ)

平和活動団体「ピースプラットホーム」事務局 森俊英氏

2017年3月8日

ところで、プルトニウムを含んだ「MOX燃料」は、従来の「ウラン燃料」に比べて放射能が強い。その分「使用済みMOX燃料」を再処理するときには、さらに危険性の高い核廃棄物を生み出すこととなる。こうした懸念は「先のこと……」として放置されているところに「再処理」政策の無責任さがある。

ちなみに、通常の「使用済み核燃料」を再処理するのは、青森県六ヶ所村の工場であり2018年から本格的稼働を予定している。一方、「使用済みMOX燃料」を再処理すべき「第二再処理工場」と呼ばれるものは、まだ具体的な立地計画も示されていない。

6 「再処理」は廃棄物総量を増やす

「再処理」の概要を述べてきたが、ここで「再処理」の大きな問題点を指摘しておかねばならない。それは、直接処分に比べて「再処理」は、結果的に「核廃棄物」の総量を増やしてしまうということ。

①最初に廃棄すべきと分けた「高レベル放射性廃棄物」

②MOX燃料として使用後の燃料棒からの核廃棄物

③再処理工場で使用される配管・液体が、新たな核汚染物質となる

上記①~③の総量は、直接処分(すなわち「使用済み核燃料」全体を高レベル放射性廃棄物とみなして埋める方法)と比較すれば、約7倍以上になってしまう(注2)。

※なお、再処理工場が稼働すれば、大気中、海洋には放射性物質が放出されることも大きな問題となっている(原子力資料情報室の六ヶ所再処理工場に関する情報ページ http://www.cnic.jp/knowledgeidx/rokkasho には、「原発1年分の放射能を1日で出す」とある)。

7 宗教者への呼びかけ

以上、「使用済み核燃料」の処理方法と、それに伴う問題点を概説してきた。原発が生み出す「核廃棄物」を、私たちは、もはや量的に減らすことなどできない。しかも、現在の原子力政策「再処理」では、「核廃棄物」をさらに増やしてしまうことにもなる。

そこで、この問題を共有する宗教者に、私は以下3点を呼びかける。まずは、青森県に足を運んでもらいたい。六ヶ所村がある下北半島における、全国からの「使用済み核燃料保管」、そして「再処理工場」の現実を知るために。次に、青森県まで行けなくても、東京にあるNPO法人:原子力資料情報室(http://www.cnic.jp/topics)が市民への情報センターとして活動しているので、ぜひアクセスを。そして三つ目は、身近に政治家がいれば、この問題への考えを話し合ってもらいたい。なかでも国政に携わる人ならば、「再処理」計画の実情にも詳しいことであろう。

8 結論

今、宗教者は当問題に強い関心を示さねばならない時にある。再度記すが、六ヶ所村の再処理工場の本格稼働は2018年を予定している。もちろん、再処理をはじめ原子力施設で働いている人が多くいる状況において、政策の転換を考えることは大変なことである。しかし、だからと言って「核廃棄物の総量増加」の問題を容認したり、6の※で記したような青森県の自然環境が放射性物質により、危ぶまれる懸念を看過することができようか(青森県の市民団体は1989年から提訴:注3)。

結びに、最も根源的な問題点を挙げて拙稿を閉じることとする。それは、原発で今も、「使用済み核燃料」が生み出し続けられていることである。「再処理」を行うか否かに関わらず、もうこれ以上に生み出してはいけないのは明白なこと。子孫に残してしまう負の遺産「核廃棄物」を、減らせないことが分かっていながらも、さらに増やすことは人道上の罪である。

現在、各地の原発では様々な視点から再稼働/停止の判断が行われている。しかし、そこに「もはや減少させることができない核廃棄物を、さらに産出してはいけない」という「人道上の判断」が入らねばならない。子孫の時代を見据えて、そうした「人道上の問題」を扱う専門家は宗教者であることは言うまでもない。

(注1)『Enelog』臨時特集号、2016年3月、電気事業連合会発行。http://www.fepc.or.jp/enelog/ からダウンロード可

(注2)六ヶ所再処理工場の事業申請書からの試算では約7倍、他の試算値はそれ以上

(注3)『六ヶ所再処理工場 忍び寄る放射能の恐怖』第3版、2012年6月、核燃料サイクル阻止1万人訴訟原告団発行

日蓮遺文の真偽論と思想史観 花野充道氏7月4日

1、研究者の思想史観 2023年の12月、山上弘道氏が『日蓮遺文解題集成』を上梓された。山上氏の永年の研究成果に基づいて、日蓮遺文を真撰・真偽未決・偽撰の3種に判別して示…

「寺子屋学習塾」で地域社会の再興を 今西幸蔵氏6月27日

社会に構造的な変化 全国の地域社会に危機的な事態が発生している。既存の組織が崩れ、構造的な変化が起き始めているのである。自治会が、子ども会が、PTAが、未だ一部ではあるが…

増上寺三大蔵のユネスコ「世界の記憶」登録の意義と課題 柴田泰山氏6月18日

はじめに 本年4月17日の午後8時過ぎ、浄土宗と大本山増上寺がパリのユネスコ本部に対して共同申請していた「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」が、ユネスコ「世界の記憶」に…

宗教と災害支援 地域に根を下ろす活動の中で(7月9日付)

社説7月11日

鎌田東二氏逝去 越境する学者が目指したもの(7月4日付)

社説7月9日

ガザ無差別攻撃 武力信仰が支配する世界(7月2日付)

社説7月4日
このエントリーをはてなブックマークに追加