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近代仏教の構造を捉える ― 近代日本の宗教≪2≫(2/2ページ)

上智大教授 島薗進氏

2017年1月20日

この時期はまた、新宗教の爆発的な成長期だった。都市化が進むなかで人々の助け合い支え合いの場として新宗教は大いに歓迎された。ひとくちに新宗教というが、そのなかには法華仏教の系譜が大きな位置を占めている。日本の法華仏教の歴史という点からは、この時期は急速な成長期ということになる。また、神仏習合の宗教伝統の系譜を引く宗教運動もかなりの要素を占めていた。伝統仏教の持ち分だったものが、相当の割合で新宗教へと移行したと見ることもできるのだ。

1930年代以前の近代仏教の社会関与

このように見てくると、1930年代から70年代は伝統仏教が社会参加の度合いを弱めていった時期と見ることもできる。『葬式仏教』や『葬祭仏教』という書物が刊行されるようになったのは、伝統仏教の社会参加の後退についての自覚を表すものではないだろうか。

もし、そうであるとすれば、伝統仏教の社会参加という点で戦中戦後に何が後退していったのか、なぜそうなったのかを問うことが重要な課題として浮上してくる。近代仏教について理解しようとするとき、これらの課題に応答することが大きなヒントを提供してくれるはずである。

たとえば国政への関与ということでいえば、1930年代以前の伝統仏教はかなり積極的にそれを行ってきたのではないか。小川原正道の『近代日本の戦争と宗教』(講談社、2010年)は戊辰戦争から日露戦争に至る時期に、伝統仏教が大いに戦争に関与していたことを明らかにしている。たとえば、浄土真宗本願寺派は西南戦争に積極的に関与し、戦後、鹿児島県に大きな寺院勢力を形成するのに成功した。

災害支援や貧しい人のための医療、孤児の支援といった点でも仏教界はさまざまな活動を行った。仏教系の医療施設もいくつも設立された。刑務所等の教誨でも大いに成果を上げた。

出獄者のケアを行う保護司の歴史をたどると、1888年の金原明善らによる静岡県出獄人保護会社の設立に遡る。法務省のホームページの「更生保護の歴史」という項には、「同会社の設立を契機として、各地に釈放者保護団体が、浄土真宗本願寺派、真宗大谷派等の仏教教団、僧侶や一部のキリスト者によって設立されるようになりました」と記されている。(http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo02.html)

これは出獄者に衣食住を提供する「直接保護」だが、その後、訪問指導や通信指導を行う間接保護、旅費、衣料等を給貸与する一時保護を行う保護団体も形成されてくる。先のホームページには、「中には、明治42年5月に福井県の浄土真宗本願寺派寺院を糾合して設立された福井福田会のように、直接保護事業を行う団体を中心として、間接・一時保護を行う支部を組織化したものもあり、この支部に保護司の原形ともいえる民間の司法保護委員を配置して事業実施に当たりました」との記述もある。

「近代仏教」像の捉え返し

断片的な引用をしたにすぎないが、たとえば仏教と戦争の関係の歴史、教誨師や保護司の活動の歴史を捉え返すことで、近代仏教についての像が書き換えられる可能性がある。そのことは示唆できたかと思う。すでにこの分野の歴史研究に取りかかっている若手研究者もいる。市川白玄らにより「仏教と戦争」の研究、また、吉田久一らにより「仏教の社会事業」の研究は基礎が作られている。それらをさらに深く掘り下げていくための研究課題は多く、新たな研究から開ける視野の可能性は大きい。

一つの大きな課題は個別宗派・宗教団体の歴史をくみ上げながら、「近代仏教の構造」の理解へと展開していくことだろう。国家神道、教派神道、新宗教、伝統仏教、民俗宗教といった近代宗教の全体を、また、近代の思想史社会史の全体像を視野に入れながら、近代仏教の構造的理解を進めていきたい。そのことによって、現代の仏教系諸団体や仏教者の自己認識と将来展望に、新たな力を付与することもできるだろう。

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