ヨーガの効能 ― 仏教も解脱の手段として重視(2/2ページ)
大谷大教授 山本和彦氏
布切れをゆっくりと呑み込み、取り出すという洗浄(ダーウティ)作法という浄化作法によって、咳、喘息、脾臓の病気、ハンセン病などが治る。肛門に竹を差し込み、口から水を飲み、腹中の水を動かして、放出するというバスティ作法により、脾疳、脾臓肥大、水腫などが治り、皮膚が輝き、消化がよくなる。ひもを鼻から入れ口から出すネーティ作法によって、頭が浄化され、肩より上の病気が治る。心を鎮めて、小さな目標物を涙が出るまで凝視するトラータカ作法によって、眼病が治り、怠惰でなくなる。腹部を左右、右左と活発に動かすナーウリ作法によって、食べ物の消化がよくなる。ダーウティ作法以下の5つの浄化法に、呼気と吸気をすばやく交代させるカパーラ・バーティ作法を加えた6つの浄化法によって、肥満が解消すると説かれている。
これら以外にもヨーガの実修によって、心臓疾患、結核、熱病、鼻づまり、便秘など多くの病気が治り、美と体力が増進し、疲労が回復し、心が安らぎ、しわと白髪がなくなり、老衰がなくなり、寿命が延びるなどの効果があると説かれている。
ヨーガの究極の目的であり、古代からインド人にとっての人間の目的は解脱(ムクティ、モークシャ、アパヴァルガ)である。『ヨーガ・スートラ』によれば、ヨーガ8階梯を実修すれば、智慧(プラジュニャー)が発生し、法雲三昧(メーガドゥータ・サマーディ)の境地に入る。そして煩悩(クレーシャ)と業(カルマン)が滅び、独存位(カイヴァルヤ)と呼ばれる解脱の境地に至る。つまり、ヨーガ実修によって生じる知(タットヴァ・ジュニャーニャ、プラジュニャー)を体験することによって輪廻者は解脱する。
この知は概念や言葉ではなく、個人の宗教体験によってのみ生じる知である。また『ハタヨーガ・プラディーピカー』によれば、アートマンを瞑想(ディヤーナ)し、節食し、12年間絶え間なく達人(シッダ)体位(アーサナ)を実修すれば解脱する。達人体位とは、左足の踵を肛門に当て、右足の踵を腹の下に当て、顎を引き、背中を伸ばし、意識を眉間に集中させるという体位(アーサナ)である。
ヨーガの実修は、長時間不動でいなければならない苦しい座禅やアクロバットのような体位によるものだけではない。ヨーガ上級者にとっては日常生活がそのまま実修である。不殺生や知足などの戒を守り、常に呼吸を細く長くすることを心がけ、意識を外界の欲望や怒りの対象から引き揚げ、自分の内面に集中させることがヨーガの実修であり、1日24時間、1年365日可能な行為である。
ヨーガ実修に入る前の心がけとしての準備も大切である。準備をしっかりとしておくことによって心が浄化され、不動になりヨーガの実修が円滑に行えるようになる。準備は不殺生(アヒンサー)、正直(サティヤ)、不盗(アーステーヤ)、梵行(ブラフマ・チャルヤ)、不貪(アパリグラハ)という5つの禁戒(ヤマ)と清浄(シャーウチャ)、知足(サントーシャ)、苦行(タパス)、読誦(スヴァーディヤーヤ)、自在神祈念(イーシュヴァラ・プラニダーナ)という5つの勧戒(ニヤマ)である。この禁戒と勧戒だけでも神通力などの超能力が発現するといわれている。禁戒と勧戒という戒はどれも重要であるが、人口増加、天災、人災によるエネルギー、水、食料などの不足に苦しむ現代人にとって最も重要な戒は知足(少欲知足)である。全世界の人間が必要最低限の物で満足することを知れば、戦争や環境破壊はなくなるだろう。