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神武天皇は忘れられたか ― 「2600年式年祭」を迎えて(1/2ページ)

成城大教授 外池昇氏

2016年4月20日
といけ・のぼる氏=1957年、東京都生まれ。88年、成城大大学院文学研究科日本常民文化専攻博士(後期)課程単位取得修了。2009年から同大文芸学部教授。著書に『幕末・明治期の陵墓』(吉川弘文館)、『天皇陵の近代史』(同)、『天皇陵論』(新人物往来社)、『天皇陵の誕生』(祥伝社新書)など、論文多数。

井上光貞著『神話から歴史へ』という本がある。中央公論社「日本の歴史」シリーズの第1巻で昭和40(1965)年発行である。私の父が全巻そろえて書棚に並べてあった。それを見つけて第1巻を開いてみたのが小学6年生の時であった。その始めから見ていって、あるページでとても驚いた記憶がある。今その本を確認すると、図が2点並んでいて片方が「戦後(昭和三十五年検定)の社会科教科書の日本史の第一ページ」として写真が載っていて「日本の国のはじまり」「大むかしの人々」「村からくにへ」とある。

問題はもう一つの図であった。「戦前(昭和十一年)の小学日本歴史の第一ページ(東書文庫蔵)」とあって「天照大神はわが天皇陛下の御先祖にてまします」と読める。その頃の私が天照大神の何たるかを知っていたのではないが、それにしてもこれが同じ日本史の教科書かと心底驚嘆して原稿用紙何枚かの作文を書いた。初代の天皇が神武天皇であり、しかも伝説上の架空の人物と知って驚いたことも触れて自由研究の課題とした。

橿原神宮は神武天皇陵に接し創建

だからといって私がそのまま歴史学者への道を進んだのではないが、面白いことに神武天皇への関心は研究の蓄積を経てよみがえり、この頃では神武天皇陵(奈良県橿原市)のことが関心の中心を占めるようになった。

神武天皇陵は、天皇陵に関する幕末以降の政治的な動向にあって最も重要な位置を占めた。文久2(1862)年に始まる「文久の修陵」では神武天皇陵は他の全ての天皇陵よりも尊重され、幕府と「文久の修陵」を担当した宇都宮藩によって真っ先に普請され、最も多額の費用が投じられた。明治期になると神武天皇陵に接して多くの民間の結社が居を構えて参拝者を誘引し、明治23(1890)年には神武天皇と皇后媛蹈韛五十鈴媛命を祭神とする橿原神宮が神武天皇陵に接して創建された。

もちろん先にも述べた通り神武天皇は架空の人物である。そんな人物の陵など研究してどんな意味があるのかと思う方もいるかも知れないが、決してそのようなことはない。何しろ慶応3(1867)年12月の「王政復古の大号令」には「諸事神武創業ノ始メニ原ツキ」とある。もちろんこれは理念を示したものであるから、物事の全てが「神武創業」のままにというのではない。しかし明治以降の歴史を顧みると、神武天皇を通してみなければ理解できない事柄が随分と多い。

ここで、神武天皇について考える一つの手掛かりとして、高等学校の教科書を取り上げることにしたい。『詳説日本史改訂版』(山川出版社、平成24年)は全国の高等学校で広く用いられている日本史の教科書である。そこでは神武天皇について以下の通り述べられている。

まず『古事記』の編纂に関してである。稗田阿礼が誦した内容を太安万侶が筆録した物語について、「創世の神々と国生みをはじめとして、天孫降臨、神武天皇の『東征』、日本武尊の地方制圧などの物語が律令国家の立場から編まれており、そのまま史実とはいえない」と注を付ける。この教科書では『日本書紀』に登場する神武天皇については触れていないが、本来なら何らかの説明が必要であろう。

次には、慶応3(1867)年12月の「王政復古の大号令」が『明治天皇紀』から引用されている。内容は先にも述べた通りである。ただし、本文では「王政復古の大号令」の大略を述べるのみで「神武創業」についての言及はない。

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