韓国で「東アジア宗教研究フォーラム」創立記念大会(1/2ページ)
天理大おやさと研究所教授 金子昭氏
東アジア宗教研究フォーラム(以下フォーラム)の創立記念国際学術大会が2月20日、韓国・済州島の国立済州大で開催された。大会テーマは「東アジア宗教研究の現在と未来」。基調講演を含めると、日本・韓国・台湾から計21人の研究発表が行われた。
このフォーラム開催まで、様々な紆余曲折があった。出発点は23年前の1993年、ソウル大で開かれた第1回日韓宗教研究者交流シンポジウム。その後、この交流シンポジウムが日韓両国で交互に開催され、2001年に日韓宗教研究フォーラムと改称、隔年開催に。08年からは中国も加わって、日中韓連携の国際学会組織としての東アジア宗教文化学会となり、同年に韓国の東義大で、翌09年には北海道大で研究大会が開催された。
出発時から関わる桂島宣弘・立命館大教授は、この一連の宗教研究交流は、東アジアにおいて宗教者と宗教研究者とが出会う交差点を目指したものだと述べる。実際、開催場所も日韓の大学や宗教施設であり、現地の伝統仏教・新宗教の寺院や教会などを訪問見学してきた。参加者も延べ500人を超え、学会誌や単行本も刊行した。
ところがこの研究交流は09年で止まってしまう。日本・韓国側と中国側とでは組織文化のありようが大きく異なり、そのため学会運営をめぐるあつれきが表面化したのである。尖閣沖の漁船衝突事故で急速に悪化した日中関係の影響も否定できない。国際学会が開かれないまま、歳月ばかりが経っていった。そうした中、今一度、東アジアの研究者や教団関係者による自主的参加、自由な相互交流をやり直すことを旗印に、このフォーラムが立ち上げられた。その際、日韓で運営委員会を設けて両国で毎年交互に研究大会を開き、そこに中国語圏の研究者にも入ってもらうことになった。23年前のスタート時の地点からの新規まき直しとなったのである。
領土問題や歴史認識問題を背景に、日中韓における国民感情は現在、決して良いとは言えない。外交・軍事面でも日中韓はおたがいに三すくみの関係にあるかのようだ。しかし、だからこそ、人々の草の根的交流が大切となる。宗教の研究という形を取ってこの交流を行いたい、ひいては東アジアの平和にも貢献したいというのがこのフォーラムの願いである。フォーラムとは古代ローマで公共広場を意味するものだったが、東アジア宗教研究フォーラムは東アジア圏の宗教に関心を持つ人々が集う自由な公共広場である。
そのためには、東アジア共通の課題を宗教研究者がおたがいに共有する必要があり、また西洋的宗教学の概念や方法論に囚われない、東アジア独自の宗教学の構築が求められる。日韓の基調講演はこれらの問題を取り上げた。
まず、櫻井義秀・北海道大教授が、東アジアに共通する社会的課題として、「圧縮された近代」における社会的排除の問題があると指摘。「圧縮された近代」とは韓国人研究者の用いた言葉で、西欧が200年かけた近代化を日本は戦後60年、韓国では朝鮮戦争後の30年で達成し、中国では1990年代以降の20年で実現している。成長と効率を最優先する大急ぎの近代化のひずみが、様々な社会問題をもたらし、その結果、今日では家族・教育・労働の3領域で制度疲労が生じているという。
これらの問題の解決のためには社会の現状の仕組みや価値観の見直しが必要であり、その役割を担うのはこうした問題を数千年の単位で見つめ、考えてきた宗教文化が欠かせない。現在、東アジア各国の人々は無縁社会に伴う社会的孤立など、人間として同じ種類の問題を抱えている。こうした問題に共感・共苦することから、研究の主題や実践を始めることができると、櫻井教授は述べた。