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仏教の立場と安保法制 ― 釈尊の教えに従い反対の声を(2/2ページ)

花園大教授 中尾良信氏

2015年10月14日
詭弁で学徒戦場に

さて、仏教を含む宗教に関わる立場からは、今回の安保法制の問題をどのようにとらえるべきでしょうか。政教分離の原則からいえば、少なくとも仏教者が政治的発言をすることは、好ましくないとする考え方もあります。もちろんそれは、宗教者の権力行使を防ぎ、信教の自由を保障する上で意味がありますが、宗教に対する信仰を自らの生き方と考えるならば、当然のこととして社会に対する姿勢にも、重要な意味を持たなければならないと思います。ならば、自国が侵略される場合だけではなく、他国で武力を行使する可能性があり、生命と環境が破壊される事態、すなわち戦争が想定されるような方向に国家が進もうとしている場合には、やはり宗教の立場から反対の声を上げるべきではないでしょうか。

多くの識者が、現在の政治状況をまるで戦争前夜のようだと指摘していますが、筆者自身も僧侶の一人として、同時に仏教系大学の教員として、当時影響力があった仏教者の多くが、どのような姿勢で社会に臨んだかを思い出さずにはいられません。宗門の僧侶や檀信徒に対して、あたかも戦場において敵の兵士を殺すことが、仏教の教えにかなっているかのような詭弁を弄し、宗門系大学から学徒出陣する学生を、同じ詭弁で鼓舞して戦場に送り出しました。確かに当時は、国家に異を唱えることが困難だったでしょう。しかし戦後、各教団は深い懺悔をこめて戦時体制への翼賛を反省し、不戦非戦を誓ったはずです。その懺悔を忘れていないのであれば、それを踏まえてこそ、国民の平和を危険にさらす道に進もうとする政治に対して、仏教の立場から断固として反対を表明するべきだと考えます。しかも、発言が憚られた戦時中とは違い、少なくとも反対意見を表明する権利は確保されており、事実多くの国民がその権利を行使しています。

民主主義の始まり

前にも触れたように、今回の安保法制反対の運動は、基本的には政治信条を共にする団体が主導したものではなく、ほとんどが個人の意見や納得できない思いを表明したものです。マスコミ報道などによれば、僧侶もおおむね個人として、あるいは有志として反対を表明し、デモに参加していたようです。では、あくまで教団としての立場ではなく、反対表明は個人としてするべきなのでしょうか。

今日の仏教教団は、僧侶だけのものではなく檀信徒もその構成員ですから、教団が全体の意見を拘束統制することは、憲法が保障する思想信条の自由を侵害することになります。しかし、ある意味で国民が憲法を遵守するのと同じ程度に、仏教徒は釈尊の教えに従って生きるよう努力しなければなりません。臨済宗妙心寺派と曹洞宗では、ともに宗務総長が戦後70年に当たっての談話を発表し、戦争協力への反省と非戦の誓いを表明し、生命と平和の尊重を謳っていますが、審議のまっただ中にあった安保法制に対しては、残念ながら言及されてはいませんでした。かなり早い時期から、集団的自衛権行使に反対する声明を発表した教団もあります。かつて国家に迎合して戦争に翼賛してしまったからこそ、教団としても法案ないし強行採決に反対する姿勢を明確に示すべきではないでしょうか。

ともあれ安全保障法案は10本ひと括りで審議され、何がどうなっているのかわからないまま、衆参両院ともに強行採決されました。安倍首相は、目的は達成したとばかりに次の経済政策を打ち出していますが、国会周辺や各地の集会で反対を表明した市民たちからは、「今が本当の民主主義の始まりだ」という叫びが聞こえていました。仏教者を含む日本国民の一人ひとりが、私たちの国、私たちの社会がどういう道を進むべきかを考えなければなりません。その意味で安保法制の議論もこれで終わったわけではなく、今後の選挙を含めた政治に重大な関心をもって、継続していくべきではないかと考えます。

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