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第22回「涙骨賞」を募集
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田丸徳善先生と日本の宗教学 ― 宗教学の反省的展開をリード(2/2ページ)

一橋大教授 深澤英隆氏

2015年5月1日

先生の書かれた数多くの論考のいずれにも共通する特徴は、目配りの利いた、冷静な反省性とも言うべきものであるが、それとともに著作目録を通覧してみると、その主題群の広がりということもあらためて気づかされる。しかもそれらの主題の多くが、その後宗教学のなかで重要なテーマとなったものであり、そうした問題に先生が先鞭をつけられていたのだということが分かる。

たとえば先に述べた宗教概念ということで言えば、「『宗教』のヴィジョンを求めて―日本的宗教概念の問題―」(1992)や「『宗教』概念の制約と可能性」(2002)があり、さらに哲学の言語論的転回をふまえつつ言語と宗教の問題を扱ったものとしては、「宗教研究における言語の問題」(1980)や「比較研究への通路としての言語」(同)が目につく。20世紀終盤のいわゆる「宗教復興」以来再考が叫ばれてきた世俗化概念の問題については、「世俗化概念の妥当性」(1987)や「The Concept of Secularization and Its Relevance in the East」(同)などが、また宗教研究の歴史の批判的検討という近年の世界的潮流に関わるものとしては、欧米の宗教学の系譜を論じられた論考群(前掲単著所収)のほか、とくに日本の宗教学史を考究された「日本における宗教学説の展開」(1984)、さらに編著『日本の宗教学説Ⅰ、Ⅱ』(1980、83)などがある。

東西宗教思想の比較に関わる論考も多いが、その際も「比較」という作業そのものがふくむ諸問題に原理的反省を加えつつ議論を立てられる点が、先生の特徴であった。これについては、「『日本宗教』論と宗教比較の問題」(1972)、「比較思想と比較文化」(1979)、「人間科学における比較の意義」(1987)、「宗教の比較文明論試稿」(1998)などがある。以上のように、ドイツ観念論から現代の宗教社会学に至るまで、高い反省的レベルを維持しつつ議論を展開されるという点で、田丸先生は日本の宗教学のみならず、国際的に見てもまれな宗教学者であったと言うことができる。

なお先生は、はじめに述べたように浄土宗寺院のお生まれで、その跡継ぎとなられることはなかったが、僧籍は持っておられた。宗教学にとっては葛藤の種でもあり、生産性のひとつの源泉でもあるこの「信仰」と「学」という両極的緊張を、先生はご自身のなかで終始検証されていたとも言える。こうしたなかで田丸先生には浄土教の思想内容に踏み込んだ一連の論考、たとえば「浄土教象徴体系試論」(1972)、「浄土と神の国」(1977)、「生命の問題と浄土教」(1981)などがあることも指摘しておきたい。

以上見てきたように、田丸先生は第2次大戦後早い時期に宗教学の研究を開始され、なお内外の旧世代の宗教学・宗教哲学の巨人たちに直接学ぶ機会を得ながらも、宗教研究がそうした時代の古いパラダイムを脱してゆくにあたって、先頭にたって宗教学の反省的展開をリードされてきたと言えよう。また宗教学と宗教哲学(宗教の哲学/宗教学の哲学)の接点を求められたことは、世界の宗教研究の状況から見ても重要である。

さらに先生はご研究のみならず、宗教研究の制度的発展についても、日本宗教学会長を6年間務められたほか、比較思想学会会長、国際宗教学宗教史学会理事、国際宗教研究所理事長などとして、多大な貢献をされた。先生の後半生は病との絶えざる闘いでもあったことを考えるならば、これだけの業績を残され、また社会的責任を果たされたことに、深い敬意を抱かずにはいられない。心からご冥福をお祈りすることとしたい。

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