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現代日本の仏教とジェンダー ― 龍谷大主催ワークショプから(2/2ページ)

名古屋工業大大学院教授 川橋範子氏

2015年1月30日
かわはし・のりこ氏=1960年、東京生まれ。プリンストン大大学院博士課程修了。Ph.D.。日本宗教学会理事。国際宗教研究所評議員。女性と仏教東海・関東ネットワーク会員。曹洞宗寺族。主な業績に『ジェンダーで学ぶ宗教学』(田中雅一氏との共編著、世界思想社、2007年)、『妻帯仏教の民族誌 ジェンダー宗教学からのアプローチ』(人文書院、2012年)など。

教団変革、女性もっと活用を

ワークショップのコメンテーターとしての感想を簡単に記してみたい。ジェンダーは、社会や文化が規定する、男はこうあるべき、女はこうではいけない、などの性別にまつわる役割規範を含んでいるが、「ジェンダーの視点」は、単なる女性中心の視点と同義ではない。女性を抑圧する男性中心主義の価値規範は、それに適合しない男性たちにとっても生き難さを生む。たとえば男性僧侶にも、結婚を当然の義務とされることに抑圧を感じる人がいる。ジェンダーに敏感な視点は、仏教界の周辺に位置する人々(そしてこれは多くの場合女性である)の声に耳を傾け、教団が変革されるべきであると示唆するのである。

近年、海外の研究者の間での、このようなジェンダーと仏教に対する学問的関心の高まりは一層顕著である。筆者もアメリカは言うに及ばず、マレーシア、ドイツ、スウェーデンなどの研究者たちから、日本の仏教とジェンダーの現状について問い合わせを受けている(本紙2013年6月29日号「論・談」掲載の拙稿を参照)。実際、今回の登壇者の一人であったマーク・ロウ氏(マクマスター大学准教授)は、教団の女性僧侶たちの多くが、中央には位置せず周辺におかれているため、かえって教団内の力の不均衡や矛盾、また宗門内の政治の愚かさがよく見えている、と述べた。ロウ氏の、男性の現代仏教のイノヴェーター(刷新者)は教団やメディアでもてはやされるのに対して、女性である場合は、うるさいことをいう連中と邪魔者扱いされるように見受けられる、という二重基準の存在の指摘は痛快であった。

このような見方に反して、肝心の仏教教団は、ジェンダーの問題に冷淡とまではいかなくとも、さほど関心を示していないのである。特に尼僧の窮状に関しては、どの教団も制度上の差別はなく、今の時代に尼僧差別など存在しない、と表明しているのは理解しがたい。アジアの国々と異なり、一般に僧侶が厳しい行や戒律を守ることの少ない「妻帯仏教型」の日本仏教にあっては、男性僧侶から見た尼僧は、自らの俗人性を映し出す鏡であり、彼らにとっては望ましくない存在でもある。飯島氏が述べるように、この状況では伝統的出家型の尼僧は、ますます周辺的な存在とされていく。また、最近の各教団における寺族や坊守などの男性僧侶の配偶者の教義的正当性や制度上の位置づけをめぐる議論は、妻帯のもう一方の当事者である配偶者女性の主体性を無視し、彼女たちの頭を飛び越えたところでの議論に終始することが多い。この顛末が、「僧侶が妻帯する非出家型の日本仏教は、進化した仏教であり誇れるものである」という、現状肯定の物言いであろう。

現在、日本ではいわゆる「ジェンダー主流化」の動きが経済界や政界などで盛んに報じられ、指導的立場に占める女性の割合を国際水準に見合うように高めるための努力が求められているのは周知の事実だ。しかしながら一例として、全日本仏教会の各種委員会における女性委員の数は、筆者たち2人が委員の任期にあったころに比べて減少しているのである。高学歴の尼僧や顕著な社会活動で知られる女性仏教者が増えている現在、これでは仏教界の貴重な資源を活用していないことになるのではないか。

今回のもう一人の登壇者の本多彩氏(兵庫大専任講師)は、本願寺派寺院の長女に生まれた有髪の女性僧侶で、飯島氏とは外見上も立場を異にしている。しかし、彼女たちが違いを超えて連帯し共感できるのは、ともに教団の中で周辺化されたものとして「ジェンダー関連痛」を経験してきたからである。筆者は当日、フロアの女性仏教者や研究者の発言に励まされ、教団という境を超えた女性たちのネットワーキングの力と意義を再確認した。このような挑戦的なワークショップの場を提供してくださった桂紹隆先生をはじめとするアジア仏教文化研究センターに心からの感謝を申し伝えたい。

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