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他人思いやる心育てる ― 「失敗させる」ことが大切(1/2ページ)

日蓮宗蓮久寺住職 三木大雲氏

2014年9月12日
みき・だいうん氏=1972年、京都府生まれ。立正大仏教学部卒。2000年、青少年育成のため「龍華船」を結成。分かりやすく仏教を説くことを目標とする。京都日蓮宗布教師会法話コンクール最優秀賞受賞。関西テレビ「怪談グランプリ」優勝。著書に『怪談和尚の京都怪奇譚』『サルヂエ』など。

食卓で、子供がコップを机の端に置いた時、多くの親は、端っこではなく、もっと机の真ん中に近づけるよう注意するだろう。なぜなら、手がコップに当たって、ひっくり返すリスクがあるからだ。

「そんな端っこに置いては駄目でしょ」

「ごめんなさい」

こんな会話が幾度か繰り返し続く。子供は幾度目からか、コップをこぼれにくい場所に置くようになる。

この子供に、なぜコップを机の端っこに置かなくなったのかを尋ねると「端っこに置くと、お母さんに怒られるから」という答えが返って来ることがある。お母さんが本当に伝えたかったことは、「コップを倒して、中身をこぼしてしまわないように」ということだが、子供には「お母さんが怒るから」という理由にすり替わってしまっている。

失敗をさせないように教えてあげるのは大切だが、必要以上に注意をし続けてしまうと、本当に伝えたいことが、意味の違うものになってしまうことがある。

良い教育とは何なのか。失敗をさせないことなのだろうか。私は思う。「コップを何度こぼしてもよい」と。大切なのは、その後の始末なのだ。

▼失敗から「慈悲」を学ぶ

もう一つ例を挙げてみる。

ある小学校の廊下に「廊下を走るな」という張り紙がある。理由は簡単。人とぶつかったり、こけてけがをしたりしないように、ということだろう。しかし、私は大きなけがをしない程度にこけて痛みを知ったり、人とぶつかって謝ったりと、失敗をすることで、人は育つと思っている。

大人になってから、道で人とぶつかって喧嘩になるのは、幼少期にそういった経験が少ないからではなかろうか。また、転んだ人に、「大丈夫ですか」と声も掛けない大人は、転んだ経験も、転んだ人をどうしてあげればよいのかさえも分からないのかもしれない。

子供の頃に失敗をして、先生や親に叱られて後始末をする。そして、失敗の意味を知る。これは「失敗をさす」という大切な教育ではなかろうか。後始末の中で、失敗したことへの罪の重さや、周りの人にかけた迷惑を知ることができる。それは、やがて「慈悲」という心になるはずだ。

▼失われつつある「慈悲」の心

人生には、慈悲が必要だ。簡単に言えば、他人を思いやる心のことである。

妙法蓮華経如来寿量品第十六に「常に悲感を懐いて、遂に心は醒悟する」とある。これは、常に悲感を持っていれば、心はやがて、悟りに至る、ということだろう。

失敗したことのない人間は、他人の痛みを知ることができない。すなわち、悲感を持てないのだ。しかし、自分に似た経験があれば、他人の失敗を思いやり、力になってあげることができる。そうすることによって、人間は悟りに近づくことができるのだと思う。

最近の教育には、この「慈悲」を教える教育が失われつつあるように思う。私が小学生の頃には「道徳」という授業があった。その昔には「修身」というものがあった。勉強の出来不出来だけではなく、言葉遣いや行動の美しさ、すなわち人間として何が美しく、何が醜いか、を教えられた。

この教えがないことで、どのような問題があるのか。例えば「美徳」という言葉があるが、最近では、「美得」になりつつあるように思う。自分が得さえできればそれでよい。他人に席を譲ることは「損」であり「美」ではない。

昨今の学校教育は、人生を幸福に生きるためのものではなく、得をするための道具になってはいないか。

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