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限界集落と寺院のゆくえ ― 各世代に人生設計上の問題、どう対応(2/2ページ)

首都大学東京准教授 山下祐介氏

2014年9月4日

そしてこうした視点で見たとき、団塊世代のUターンや2カ所居住は、この先を占う大きなカギなのである。そもそも人口的に過剰で、後継世代に頼ることはできないのだから、老後を上手に生き抜くためにも、どうしても考え方を変えなければならない世代でもある。この世代がこれからどんなふうに人生の最後を生き、戦後社会を次世代につながる持続可能な循環あるものへと調整できるのか。農山漁村へと還流し始めた若い高齢者は、もしかするとその答えを求めに来ているからである。

私は思う。その答えは科学や技術では出ない。それはおそらく伝統的な日本の暮らしに根ざすものであり、かつそれがグローバリゼーションや新自由主義といった抗うことの難しい世界情勢とも両立するような新しい論理に生まれ変わることによってであろうと。むろん新しい農村消費を求める欲望型のUターン者も少なくない。むしろ、宗教者には、大事な問いと答えにしっかりと気づけるよう、人々を導くことが求められる。

その際注目すべきもう一つの世代が、平成生まれである。そもそも生き方の転換は、暮らしのスタイルができあがってしまってからでは難しい。若い時点で、失うものがなく、可塑性の高い段階でこそ人生は選択できる。

そもそも、この世代はその親である団塊ジュニアたちと違って、既定の路線しかない割に、先の見えない21世紀社会への船出を強いられている。企業に就職すれば人生安泰でもなく、学校も地域もどれも集団の一員として受け入れてくれずにきた。この若い平成生まれが、現実社会に向き合うときに、戦前社会に固有の暮らしや集落が、もしかすると以前よりも輝き、大切なものに見え始めているかもしれない。そしてさらにこの世代は東日本大震災・福島原発事故を見てしまった。この現実から人生を考えねばならない最初の世代でもある。

団塊世代と平成世代のコラボレーション。実際にそのようなものがごく小さいながらも見られ始めている。今後の宗教の動向も、これら各世代の人生航路上の問題にいかにこたえうるのかにかかっているし、それこそが今の宗教者の使命なのだというべきだろう。

ついでにいえば、この間にいる団塊ジュニア世代は、ともかく今の役割を頑張ってもらうしかない。いまさら子育て途中で人生を変えられない。ただしここにも、平成世代=子どもたちのために、自分の人生を調整したいと画策する人々もいる。他方で、家族形成や次世代への継承をあきらめる人もこの世代には多い。中高年の独身は、農山漁村が抱える大きな悩みの一つである。

今述べた三つの世代は、ちょうど、親・子・孫の関係にもなる。これらの世代の間で、どんな新しい人生のあり方が見いだされていくのか。その結果は、過疎地・限界集落のあり方のみならず、日本社会の今後のあり方をも変えるだろう。日本人には信仰がないなどとよくいわれるが、そんなことはない。日本人の信仰は土地にくっついているので、人が土地から離れたことで信仰は見えにくくなっているだけだ。これらの新しい動きに見られるのはまさにその土地への回帰であり、このことを積極的にとらえることができるかどうかに、日本の将来は託されている。逆に言えば土地への回帰がなくなったときが、日本の文化や風土が限界を超えたときなのかもしれない。

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