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限界集落と寺院のゆくえ ― 各世代に人生設計上の問題、どう対応(1/2ページ)

首都大学東京准教授 山下祐介氏

2014年9月4日
やました・ゆうすけ氏=1969年生まれ。専門は都市社会学、地域社会学、環境社会学。著書・編著に『限界集落の真実』(ちくま新書)、『東北発の震災論』(同)、『白神学』(ブナの里白神公社)、『人間なき復興 原発避難と国民の「不理解」をめぐって』(明石書店)など。

高齢者が半数を超える集落を限界集落と呼ぶ。そして集落が限界を超えるとやがて消滅に至るとされた。1990年頃に提唱された議論だが、2010年代に至り、今、過疎地域はこの限界集落問題に焦点が当てられつつある。

ところで限界集落への対応については、これまでしばしば高齢者の生活をいかに守るかという視点から議論がなされてきた。しかしながら本当の問題は次世代への地域継承であり、後継者や子供のいない集落が問題なのである。続く次世代への継承に赤信号がともっている地域をいかに次世代につなぐのかが問われている。

とはいえ、ここで注意しなければならないのは、なぜそのような事態が生み出されたのかである。個別の集落がジリ貧でどうしようもなく年寄りだけになり、ただ消滅するのを待っているのだとしたら、手の打ちようがない。しかし一般に多くの限界集落は、家族の側から主体的に対応した結果生じたものである。戦後日本社会の激変に対し、戦前生まれと戦後生まれが、世代間で地域や産業を住み分けしたことが、超高齢地域現出の要因となっている。この世代間住み分けによって、農山漁村を戦前生まれに託しつつ、多くの戦後生まれは都市的職業に就き、子育てを成就することができた。

限界集落の現出はこうした適応の結果だから、しばしば本当の意味で無理はせず、家族のうちの誰かが近くの主要都市に住み、集落との縁を切らずにいる。そして2010年代に至って戦前生まれ世代が平均寿命を超え、戦前生まれから戦後生まれへの人の完全な入れ替えが進む中、戦前社会がもっていた生業・生活文化をつないでいこうと、戦後生まれのUターンの動きも目立ち始めている。また20歳代から30歳代にも農村回帰の展開が見られ、時代は大きく変わりつつある。このような世代間継承に向けた動きの胚胎が、現実の趨勢へとどう結実するかによって過疎地・限界集落の展望も見えてくるだろう。

もっとも、限界集落をめぐる現実は決して楽観できるものではない。

昨今よく聞くのが、集落の担い手が減ったから神社が成り立たない、祭礼が成立しない、あるいは檀家が減ったので寺院が成り立たない、こういった問題である。あるいは墓の守り手がいない、都会の方に移してしまったというのもある。仏壇があるからと、長い間空き家のまま維持されていたはずの家が、急にたたまれ更地になったというケースもある。人々を支えてきたイエが、戦前生まれの退出でいよいよ解体し、その余波が精神世界にまで襲いかかってきているようだ。

こうした情勢に対し、地域社会が変化したので寺社も変化しなければと、後手後手で考えていては乗り切れないだろう。限界集落に現れている家族や地域社会の変化は、日本社会の変化と連動したものであり、全体の中の一角だ。今迎えつつあるこの平成の大社会変動に私たちはまだ対応する道が見えていない。どういう枠組みで、今後の社会を構想していくのかが問われている。

そしてそのためにも、世代ごとに違う人生設計上の諸問題に、今後どう思想的にこたえていくのかが重要となりそうだ。

2010年代後半に入り、戦後生まれの第一世代(団塊世代)が高齢者の中心となることで戦前社会は終わりを遂げ、今後は戦後社会一色に切り替わる。戦後社会はそれまでの暮らしを大きく変革し、小規模家族、超高齢少子社会、都市的消費生活、基本的な小規模所属集団の解体などを推し進めてきた。もっともこの社会はまだ新しすぎて一巡もしておらず、今後この戦後社会を、持続可能なものに落ち着かせるための、最終調整が求められている。

その際、その最も先を行く戦後直後生まれ、とくに数の多い団塊世代の動向がどうしても重要になるが、この世代が生きてきた時代はずっと右肩上がり。人口も伸び、経済も常に成長してきた。今よりも暮らしは良くなることが前提で暮らしてきた人間にとって、ほどほどで足りるを知ることは、もしかすると非常に難しいことかもしれない。しかし、この世代が高齢者の仲間入りをする段階で、自分たちの暮らしは次世代がさらに社会を豊かにすることで守るべきだと考えるのか、戦前生まれを引き継いで伝統を守り伝える側に回り、社会を維持し、次世代のために人生の最期を賭ける者になっていくのかによって戦後社会の行方は大きく決定づけられるだろう。

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