日本の「見えない貧困」 ― 食糧支援を通し心も支援(2/2ページ)
NPO法人フードバンク山梨理事長 米山けい子氏
現在は過去にいただいた返信はがきの分析も始めており、当事者の声を生かした活動や政策提言につなげていく試みを進めています。さらに、返信はがきから食糧支援だけでは解決されないと感じるようになり、現在では相談支援室を新たに開設し、ヒアリングや自立を目的とした包括的支援を行っています。
▽「お心あるお手紙ありがとうございます。今私も難しい問題をたくさん背負って生きています。夜10時まで仕事ですから、長男の借金もあって、自己破産をしようとつい弱くなり、生きていくのが本当につらくなりました。一緒にがんばってきてくれている三男と、フードバンク様から頂きお助けくださっている品物で、三男の健康を守ってやりたいと思います。時々二人で、つらいね、と言ってしまいますが、光がさすまでがんばって二人で働いています。長男の借金は本当につらいです」
▽「援助をありがとうございます。子どもを二人育てながら仕事をして不安がいっぱいの中、温かいお手紙と食品をいただき、涙が止まりません。常に手紙を持ち歩き、心がつまった時に目を通すと励みになります。一人ではないのだと……。わずかな期間ですが、安心して子どもたちに食事を与えることができます」
孤立して悩む方々の声に耳を傾けて寄り添い、「独りではないよ、一緒に前向きに一歩ずつ歩んでいきましょう」との思いから、食糧支援に加えて相談支援を進めています。見えない子どもの貧困、食のセーフティネット事業において最近特に優先課題となっているのが「子どもの貧困」です。私たちの食糧支援を受けているのは、生活保護を受給できない方や、収入があるものの低賃金で、いわゆるワーキングプアと言われる方々です。2013年5月の食糧支援の該当者を調査したところ、162世帯中60世帯が子どものいる家庭でした。日本における子どもの貧困率は15・7%、6人に1人と言われても、実感することは難しく、だからこそ、子どもたちに手を差し伸べられないのが実情ではないでしょうか。私たちの活動から見えてきた実態を、早急に社会に伝えていく役割と責任を痛切に感じています。
「お父さんにかわって書きます。いつもおいしいものを送っていただき、ありがとうございます。妹も弟も、よろこんでいて、お父さんと私もすごく助かっています。またよろしくお願いします」
日々の食事にも事欠く現実の中で子どもたちが生きているとしたら、これは子どもたちの問題に留まらず、国の未来を左右しかねない事態と思うのです。貧困のために3度の食事もままならず、修学旅行にも行けず、さらには夢をかなえるための進学の道も断たれてしまう子どもたちへの支援こそ急務なのではないのでしょうか。
私たちフードバンク山梨の活動は、「アンパンマン」のような存在であると思います。お腹をすかせている人がいれば、どこにでもパンを届け、「がんばって!」と励ます。そのような活動が広まり、多くの方々を救う活動となることを願っています。地域に密着しているお寺や神社の方々は見えない貧困を見る力を持っています。宗教者の方々は心の豊かさを伝えることができます。大切なのは貧しくても「貧乏は恥じゃない!」と強く生きること。食糧支援は食べ物だけでなく、私たちの「生きててほしい」という思いを送ること。フードバンク山梨の活動を知ることが、宗教者の方々にとって支援に一歩踏み出すきっかけになればうれしく思います。