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中外日報社「宗教文化講座」

奥村一郎神父の軌跡 ― 信仰の種を「蒔く」宗教者(2/2ページ)

愛知大国際問題研究所客員研究員 内藤理恵子氏

論2014年7月25日

また「作務」についての仏教とキリスト教の比較も面白い。「作務」はそのまま外国語にもなっているほどの禅語であるが、奥村神父によれば、キリスト教の修道院における「祈れ、そして働け」とは意味合いが違うとの指摘である。禅では「個々人の修行的意味」をもっている「作務」だが、カトリックのそれは、「隣人愛からの奉仕的共同的意識」が基盤である。そこで、禅の作務を聖書の長期深読黙想に取り入れようというのである。いずれにしても、そこにあるのは宗教宗派を超えて万人が聖書から「宝」や「救い」を掘り出して欲しいという奥村神父の強い想いであろう。

さて、現代社会はいうまでもなく「情報化社会」である。今年大学に入学した学生に尋ねたところ、彼らが生まれた時には既にWindows95が発売されており、物心ついた時にはネット検索を使いこなしてきたという。ゆえに、現在の若者は驚くほどに「物知り」なのである。膨大なデータがネットを介して若者の頭脳に日々送り込まれている。知識のみだけで言えば、中高年も太刀打ちできないほどであろう。

しかし情報の波に翻弄され、シンプルで大切なものが見えにくくなった。「ネットいじめ」は既に社会問題になっているが、学生から情報を聞くと、もっと根深い問題も見えてくる。一部の「人間関係を操る方法」をインターネットサイトで読んでいる若者が「相手の心をつかむ裏技」を駆使しながら互いにつながっているという。信仰無き時代に、まるで黒魔術合戦のようなそんな「裏技」が流行し、人と人とのつながりはねじれ、倫理が失われていく。

このような状況にあって、現在の若者に本当に必要とされるのは「縁」や「隣人愛」といったシンプルな考え方だろう。もはや仏教、キリスト教、宗旨宗派という枠組みにこだわっている場合ではない。利害関係や優越感、テクニックのみで人とつながっている「闇の状態」を脱することを手助けするのが宗教者の役割である。ここで重要になってくるのは「実在の宗教者」の重みである。

真言宗智山派の僧侶に「どんな情報もいち早く手に入る時代になって、教義も知ることができるようになったところで、実在の宗教者の役割はどのように変化するのか」と質問したところ、ある一人の僧侶から「野球解説書を読んでもイチローになれるわけではない」という回答が返ってきた。まさにその通りだ。データばかりがあふれんばかりに存在していても、実在の宗教者がいなければ、それは単なるデータに過ぎない。実在の宗教者が一挙手一投足を次世代に見せることで、データではない真の信仰が伝わる。

私の場合はカトリックの学校に中学から大学院まで16年間通ったが、仏教関係者との縁が強く、ここ数年は仏教の思想に引かれている。しかし、聖書の存在をどうしても意識の外に追いやれないのは、すでに病身であった奥村神父が「病で声を出すのもつらい」としながらもその身から絞り出すように話された「聖書と奇跡を否定してはならない」というメッセージが私の心から消えないからだ。このような経緯を経て、奥村神父の死後、初めて、「マルコによる福音書」第4章「種を蒔く人のたとえの説明」が理解できた。

重要なのは実在の宗教者が信仰の種を「蒔く」ことである。また、それに気がつくと同時に、仏教(唯識)における「種子」についても洞察を深めることができたように思う。「種を蒔く人のたとえ」は仏教やキリスト教などの宗教の枠組みを超えて人類にとっての普遍的なメッセージである。宗教や宗旨宗派にとらわれず、宗教間対話を継続し続けていく姿勢。これが私が奥村神父からいただいた種である。

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