自殺問題での宗教者の役割 ―「ゲートキーパー」に最適(1/2ページ)
U2plus代表 東藤泰宏氏
以前、京都市のキャンパスプラザ京都で行われたNPO法人京都自死・自殺相談センターSOTTO主催のシンポジウム「自死・自殺に本気で向きあう」に、パネリストとして参加した。そこで得た知見と、うつ病患者としての経験をもとに、本稿では宗教者が日本の自死・自殺問題に対して大きな可能性を持っていることを伝えたい。自死・自殺の現状と医療現場の課題、ゲートキーパーの説明、宗教者への提言を行う。
2012年度の自殺者は2万7858人。15年ぶりに3万人を下回ったが、個々の悲しい事象を考えれば、数字だけで評価される問題ではない。そして重要なことだが世界保健機関(WHO)によれば「自殺は大きな、しかし予防可能な公衆衛生上の問題」である。
WHOによる調査では、自殺する人の96%に精神科的な診断名がつくとされている。またNPO法人ライフリンクによる「自殺実態白書」では経済問題・過労・家庭問題など現実的な課題と、うつ病が複合して死に至る経緯が詳細に報告されている。
それでは、自殺問題と向き合う最前線であるはずの精神科及び心療内科の現場はどうなっているか。「3分診療」と揶揄されることもあるように、極めて短時間での診察が中心となっている。1人の患者に時間をかけられない分、精神的なケアはもちろん、個人が抱える現実的な問題のフォローも難しい。
もっとも、いたずらに医師を責めることはできない。約100万人いるとされるうつ病(気分障害)患者に対して、精神科医が1万人弱と、人口比率が少なすぎるために起きている事態だからだ。
精神的なケアでは心理療法を扱う臨床心理士がいる。しかし臨床心理士も全国で約2万人と、ニーズに対して圧倒的に少ない上に、1回あたりのセッションが約50分と多くの時間がかかる。さらに現在、カウンセリング料金は診療報酬の対象ではないため、選択肢として経済的に選べない自殺予備軍も多いと思われる。
内閣府では「ゲートキーパー」を育成することで、この問題に対処しようとしている。内閣府公式サイトによれば、ゲートキーパーとは「悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のこと」である。
WHOの自殺予防介入研究によれば、自殺未遂者への短期介入(未遂後の1時間の介入)とフォローアップ(18カ月間に15回の訪問)、二つの質問「How are you?」「Do you need anything?」により、自殺率が5分の1に減少した。
このことからも、自殺予備軍に対し、「悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のこと」の有効性は信用に足るだろう。
私自身の経験からも、人とのつながりは自殺問題に対して、極めて有効であると感じる。私が自殺の誘惑と戦っていた時、生の側へ引き留めてくれていたのは、知人やカウンセラーとのつながりであった。当時の私にとって、自死とは「大きくジャンプするようなもの」ではなく、「長距離走の途中で足をとめるようなもの」であった。生きるべき理由がいくつあっても、「苦しみから楽になってしまいたい」という欲求はそれを上回る。
このような場合に「あなたは~すべきではない」「あなたは~した方がいい」と言った言葉は、希死念慮を抱えた当事者へ届かない。それはあくまで一般論だからだ。当事者はあらゆる一般論を理解した上で、なお希死念慮に悩まされている。だから「わたしは、あなたに~してほしいと思っている」「わたしはあなたに~してほしくない」といったように、「寄り添う側の主語」が極めて重要になると感じている。