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文化財所蔵社寺による鑑賞授業・講座の可能性(2/2ページ)

醍醐寺学芸員 田中直子氏

2020年1月23日 15時05分

生徒の感想には、2年生は「五大力さんは、本当にいたのですね」「こんなすごい仏様に守られていると分かってうれしい」「オーラがすごい、解説を聞き良く分かった」「もっと見たい、知りたい」など高次の知的欲求も示される。3年生は「インターネットや本などは、切り取られた部分で、三宝院に来て、建築、庭園、風、滝の音、鳥の声、歴史など全てが相まって一つなのだと分かった」など、実体験を伴う発見が寄せられる。

鑑賞教育の潮流

ところで鑑賞は、ビジネスマンに注目されている。昨年7月22日、日本経済新聞夕刊に「アートで磨け 論理×感性」という記事が掲載された。ビジネスセンス=「創造的な思考力」を磨くために、鑑賞講座がエリートたちに大変好評だそうだ。ここで言う鑑賞は、対話型(Visual Thinking Strategy)と言われ、米国のニューヨーク近代美術館(MoMA)で20世紀後半に開発された。現在は世界の美術館や教育現場で、広く普及している。学芸員や進行役から鑑賞者への質問は、次の三つである。「この絵の中でどんなことが起こっていますか?/あなたは何を見てそう思いましたか?/もっと発見はありますか?」。「他に」と問うと発言が出ないので、「もっと」を使うなど、詳細に研究されたメソッドで、醍醐寺の授業でも活用している。

鑑賞をビジネスに生かそうとする動きや出版は、欧米では20年前より始まった。日本では、2018年の「HRアワード」最優秀賞を、山口周著『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)が受賞し、注目を集めた。審美眼をもった創造性や、美しい思想、哲学のある生き方などが、地球規模で広がるグローバル社会で、問われているのだ。

文化・文化財・教育について

醍醐寺は「古都京都の文化財」として、1994年に世界文化遺産に登録された。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は「文化の広い普及と正義、自由、平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないもの……(ユネスコ憲章前文)」とし、「文化とは、特定の社会または社会的集団に特有の、精神的、物質的、知的、感情的特徴を備えたものであり、また……芸術・文学だけでなく、生活様式、共生の方法、価値観、伝統及び信仰(原文はbelief)も含むものであることを認識し……(文化的多様性に関する世界宣言、文部科学省訳)」とする。

2006年に「教育基本法」は60年ぶりに改正され、前文に「伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する」と記された。現在全面実施に向けて移行が進む中学校の新学習指導要領においては、教育内容の主な改善事項の一つが「伝統や文化に関する教育の充実」だ。そこでは「宗教、文化遺産に関する学習の充実(社会科)」も注目される。伝統・文化を、背景とともに学ぶ必要性が、改めて提示されている。

昨年9月に開催されたICOM(国際博物館会議)京都大会では、「地球の民として」という言葉が多発した。我々「地球の民」は次世代に何を伝え残せるのか。19年度施行となった改訂文化財保護法は、文化財の保存・活用の推進を図る。西洋の堅牢な石造建築や石造彫刻と、日本の木や紙、絹などによる脆弱な文化財とでは、その保存・活用ともに一概には語れない。それらの背景や思想も異なる。グローバル化が進むからこそ、各国はそれぞれにふさわしい文化財の保存・活用の在り方を、教育も視野に入れ、丁寧に多角的に検討していく必要がある。

おわりに

歴史の中で寺宝は文化、文化財、美術史などの言葉をまとう。それもまた共通言語を得て、大切なものを守り伝えようとする思い故であろう。古より、宝物は先人への顕彰、思いや祈り、畏敬や畏怖の念とともに継承されてきた。教育では教養として、祈りや宗教の在り方を学び、異文化理解を促すことができる。教育普及活動を通して、寺の文化や保存、継承についても鑑賞者とともに考えていきたい。地域の寺院と、学校やコミュニティーが歩み寄り、その連携が普及振興することを願う。生徒たちには、継承を肌で感じるとともに、学びを通して自らの創造と革新を自由に旅し、素養を磨いてほしい。

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