都道府県別人口推計からみた天台宗寺院への影響 ― 過疎地寺院問題≪9≫(1/2ページ)
大正大教授 新保祐光氏
大正大教授 村上興匡氏
天台宗総合研究センター2班は社会と宗派の関係を多角的な視点から検討する班である。その一つの活動として2013年に「少子高齢化と寺院運営に関するアンケート」を行い、各寺院の寺院運営の現状と、今後の寺院運営に関わる意識について明らかにした。
本論は、この寺院運営に大きく影響する要素の一つである人口減少に焦点を絞り、天台宗寺院への影響を検討するものである。人口減少は檀家寺であれば、葬儀、法要等に大きく影響する。
人口減少については、14年に日本創成会議が、人口減少の極端な例として消滅してしまう自治体があるとし、その可能性がある具体的な都市名と人口推計を市町村ごとに示した。本報告は、ここで示された消滅するかもしれない自治体と天台宗寺院の関係について検討したものである。
⑴本稿で参考としたデータ
本稿における人口推計に関するデータは、すべて日本創成会議でだされたデータをもとにした。また天台宗寺院の数については、寺院名簿(16〈平成28〉年度)を参考にしている。
原子力発電所事故による人口変化が大きいことが予測され、人口推移の予測が困難であるとの理由から、日本創成会議資料では福島県に関してはデータを出していない。このデータを基礎とする本稿においても、福島県は今回検討の対象外とした。また寺籍簿における総本山も、人口減少は檀家数との関連が強いことから今回は検討の対象外とした。
⑵用語の定義
①「消滅可能性が高い都市」(28年までの推計)
20歳~39歳までの女性人口が50%以上減少し、人口が1万人未満となる地方自治体。
②「消滅可能性都市」(28年までの推計)
20歳~39歳までの女性人口が50%以上減少するが、人口は1万人以上の地方自治体。
⑶割合について
小数点2桁目で四捨五入を行った。そのため割合の総和が100%でない場合もある。
⑷分析の視点
「消滅可能性が高い都市」「消滅可能性都市」にある天台宗寺院を都道府県ごとにみていくうえで、実数と割合の両方を用いて分析した。これは単純に数だけでなく、割合からもみることで意味が変わるからである。例えば同じ5カ寺でも100カ寺ある地域の5カ寺と10カ寺しかない地域の5カ寺では、人口減少が寺院に与える影響は異なると考えるためである。
日本全体でみると「消滅可能性が高い都市」にある天台宗寺院は295カ寺、10・3%である。「消滅可能性都市」にある寺院は747カ寺で26・1%である。少なくともこの二つを足した1042カ寺、36・4%の寺院については、人口減少により地域の様々な機能が低下し、寺院運営に多様な影響があると考えられる。
それぞれの寺院数を、福島県を除いた都道府県の数である46で割ると、1都道府県あたり「消滅可能性が高い都市」にある寺院は6・4カ寺。「消滅可能性都市」にある寺院は16・2カ寺となる。