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伝統仏教教団の過疎対策と宗派間の連携 ― 過疎地寺院問題≪8≫(2/2ページ)

浄土真宗本願寺派総合研究所研究員 那須公昭氏

2019年11月29日

これらをふまえると、現時点からさまざまに試行錯誤を重ねつつ住職や檀家など関わる人のモチベーションをあげ、次世代が引き継ぎたくなるような魅力ある寺院活動の展開を行うことが何よりの過疎対策につながるものと考える。

次に、「寺院の統廃合」をみてみよう。統廃合とは、寺院の合併もしくは解散を意味する。

本願寺派では、合併・解散についてそれぞれ手引き書を作成し、所轄庁の諸書類の申請など事務処理の支援を行っている。また、妙心寺派と本願寺派では、解散・合併にあたる事務費や建物除去費に対する助成金制度がある。

妙心寺派は、状況に応じて宗務本所職員を特命兼務住職に任命し、宗務本所主導で解散手続きを行っている。この事業を担当する宗門活性化推進局顧問の久司宗浩氏は、懇談会にて「寺院の廃寺は、檀家や地域住民など、残された人の心のケアが一番大切」であると強調された。廃寺に伴い、残された檀家や地域住民のさまざまなケアについては、教団を越え、さらなる議論や連携などが必要だと考える。

最後に「現状把握」を取り上げる。各教団は、5年ないしは10年単位で、「宗勢調査」もしくは「教勢調査」と呼ばれる教団内の悉皆調査を実施している。さらに、特定の地域を選定し、住職家族や地域住民を対象とした実地調査を行っている。各教団は、これら二つの手法を用い、相互に補完しながら現状把握に努めている。

ただ「過疎」として問題視される地域が教団により異なる。この相違点をまとめると、以下の2点が指摘できる。一つには、教団所属の寺院が過密化している地域に注目するケースである。本願寺派では、滋賀県や奈良県南部、中国地方山間部など、真言宗智山派では佐渡島や房総半島などである。

二つには、行政の示す「過疎指定地域」を使用し、過疎地域か否かの判断を行うケースであり、日蓮宗や浄土宗がこれにあたる。過疎指定地域は、各自治体の財政力指数や人口減少率により判断されるが、寺院の実態と照らし合わせると、単純化は難しいだろう。

たとえば、滋賀県は、人口増加の見られる数少ない自治体であるが、当地にある多くの本願寺派寺院は過疎化を問題視している。滋賀県には、本願寺派寺院が約600カ寺あり、1集落に3カ寺以上立地しているケースも多く、門徒の大半が寺院近隣に集中し、門徒数30軒未満といった小規模型が多い。

つまり、新興住宅地の開発などにより近隣地域は人口増加しているが、寺院が所在する集落の人口は減少しているため、集落が衰退し、寺院運営が弱体化していることがうかがえる。このように、どの地域を過疎地と判断し、施策を講じるかは、教団内での寺院分布などを考慮する必要性がある。

以上、各教団の過疎対策に共通する3点を概観したが、最後に懇談会の取り組みを紹介して終わりたい。懇談会では、17年に石川県七尾市にて、教団を越えた実地調査を行った。本紙9月25日号の徳田剛氏が指摘されるとおり、この調査により、他出子の所在地や帰省状況から、寺院のもつ強みや問題点が明らかとなった。

18年、この結果を七尾市仏教会の寺院に報告した。その後、参加者には、宗派関係なくグループになってもらい、ワークショップを行った。すると、参加者から「地域の悩みは教団の違いは関係なく同じだった」「教団ではいえない悩みを吐露することができた」といった声を多数頂戴した。教団は異なるが、同じ地域住民であり、寺院運営の責任を持つ方々である。地域の苦悩を共有することにより、新たな関係性が構築され、違った視点から活動が展開されるのではないかと可能性を感じたワークであった。

各地で教団の垣根を越えて寺院の連携をはかり活動することは、さまざまな可能性を生み出すチャンスだと考える。例えば、地域の行政機関やNPOなどの諸団体と連携が組みやすくなることもあるだろう。特に行政機関は、「政教分離」により一宗教団体と協力体制をしくことは難しいが、地域単位で各宗教団体が連携しアクションをおこせば、関心を寄せてくれる可能性がある。こうした地域にある団体と教団や寺院が連携し、共に考え、さらなる活動を展開すれば、人口減少する日本社会に仏教界が大きなうねりの一躍を担うことができると、筆者は期待している。

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