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廃仏毀釈と寺院再興―土佐の場合(2/2ページ)

高知県立高知城歴史博物館館長 渡部淳氏

2019年9月6日

ただ、「僧俗相混」の浄土真宗については、藩庁もその扱いに戸惑い、廃寺率は低く、廃寺檀徒の一部は真宗寺院へ転派したと言われている。

◎寺院の再興

土佐藩13代藩主豊凞夫人智鏡院は、薩摩藩島津斉彬の妹で、容堂を藩主に育て上げたといわれるほど気丈な女性であったが、その遺言状が残っている(明治13年死去)。そこで彼女は「五十日の間ハ仏式ニ御頼み申し候」と、神道に転宗した山内家にあって、仏による供養を願っているのである。明治7年9月の県布達には「先般廃寺廃号相成候寺跡ニ於テ窃ニ仏式執行致候向モ有之哉之趣以ノ外ニ候」とあり、神道による完全統制は容易なことでなかったことが伺われる。

神道葬儀の指導にあたるため、神葬祭式取扱に任じられていた僧侶たちは、明治5年には一斉に罷免されているが、その背景には廃仏による混乱を終息に向かわせようとする意図があったといわれている。「土佐における神仏分離」(中城直正・北川茂躬、大正15年)では、「仏寺は漸次再興」「耶蘇教会は各所に設立」される一方、「氏神の祭典寂寞として参拝する者日に減少せり」と、宗教界の落ち着きと神仏世界の拮抗状態を記している。

県内寺院総数をみると、明治3年613、廃仏毀釈の結果176、同13年に187、大正9年には245と漸増している。

寺院再興のあり方は、自力再興の他、他国寺院による廃寺継承や土佐移転など様々である。例えば、明治18年、藩政期に浄土宗知恩院末であった菩提寺称名寺を再興・継承したのは、明治16年に京都から土佐入りした京都禅林寺塔頭帰命院である。

また、臨済宗妙心寺派吸江寺の住持少林桃雲禅師がまとめた『明細帳』(明治42年)には、明治25年から36年の間に、京都・静岡・兵庫・徳島・愛媛などから移転してきた10カ寺が記録されている。

一方、自力再興の場合においても、他国から土佐入りした僧侶の活躍が注目され、その果敢な活動は、各寺院史において中興の祖として重要視されている。

前述の吸江寺『明細帳』をまとめた、少林桃雲禅師はその代表で、豊後に生まれ、伊予・美濃で修行、明治13年に32歳で本山妙心寺の命により高知県幡多郡長泉寺を再興し、以後20年にわたり、土佐の廃寺再興に専心した傑僧である。他にも、全国行脚で浄財を募り、衰退していた竹林寺を再興した真言僧船岡芳信師もよく知られている。なお、僧侶の活動の背景に、時として本山の寺院再興運動があったことにも留意しておきたい。

◎運動の激しさの理由

そもそも土佐の神道分離・廃仏毀釈の激しさの理由は何であろうか。土佐史は、それに対する明確な答えを未だ持っていない。

前掲「土佐における神仏分離」は、「他縣に比し法令厳刻に励行」した故だという。また、土佐独自の学問「南学」が、儒教と垂加神道の色彩が濃いという、学問・思想環境に理由を求める者もある。確かに、藩校「教授館」を設置した8代藩主豊敷以来、歴代藩主は正月の宮城遙拝を継承、幕末には藩主を神として祀る「藤並神社」を創建するなど、神道色の強い政治的特色もあった。また、高知藩が政府に対して「於当管内ハ神社凡一万座計有之」と回答しているように、村々には数多の神々がいるという、土佐の在地特性が指摘されることもある。

その点でいえば、当該期の民衆動向にも留意する必要もある。土佐の路傍には、首なしの地蔵が散見される。これらが、単なる思想混乱下での民衆の仕業なのか、あるいは、廃仏毀釈研究が指摘するように、幕藩体制下での寺院や僧侶に対する反感がなさしめたものなのか、また、民衆といってもどの階層によるものなのか等々、明治維新から150年、近代勃興期の土佐宗教史研究の新たな展開が求められている。

高知城歴史博物館では、9月13日から11月25日まで、特別展「大名墓をめぐる世界 そのすべて―土佐藩主の病と遺言、葬礼と法要、神格化まで」を開催。

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