PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第22回「涙骨賞」を募集
PR
第22回「涙骨賞」を募集

涅槃会に寄せて 長谷川等伯筆涅槃図(2/2ページ)

曹洞宗龍昌寺住職 竹林史博氏

2017年2月17日

法華経の真精神からすれば、沙羅双樹の林で入涅槃された釈尊は、肉身の迹門の釈尊ではなく、本門の久遠実成の釈尊でなければならない。したがって宝床の瑠璃地表現は、その上に横臥される釈尊が法華浄土に在す久遠実成の仏であることを示す最も端的な表現であった、ということになる。本法寺本の裱背墨書銘に、「南無久遠実成非滅現滅釈迦牟尼如来」とあることが、何よりも雄弁にそのことを物語っていよう。「非滅現滅」の一句は、七尾市の長谷川家菩提寺長寿寺本堂の日蓮聖人一代記絵図の「聖人ご入滅」の場面に「非滅現滅」の説明が付されているのを見て、日蓮宗ではよく知られた表現であることを知った。

こうしてみると、等伯こだわりの宝床の瑠璃地表現は、この世の出来事である沙羅双樹下の釈尊入滅の場面を、久遠実成の法華浄土へと一大転回させる大切な舞台装置だったことが分かる。だから法華信者の等伯としては、どうしてもはずせない箇所だったのである。

◆「等伯の自画像」説は本当か?

数年前発行の等伯涅槃図(妙成寺本)の絵解き解説書に、画面左下の両手を前に差し出す人物を「等伯の自画像」としてあった。そういえば直木賞の安部龍太郎著『等伯』(日経新聞出版社・2012年)にも、これは本法寺本の同じ位置の人物を、等伯の自画像としてストーリーが展開していた。いずれも話としては興味深いが、本当だろうか?

一般に等伯作品といえば、構図も彩色も一切が一品もののオリジナル作品と思われがちだが、涅槃図製作には粉本(手本の原画)がある。妙成寺本の粉本は養祖父の無分作の涅槃図、だからこの2幅を比べれば、自画像かどうかは直ちに判明する。

幸いにも去年10月、七尾市の「山の寺の日」に、等伯と無分の直筆2幅を同時公開する講演会があり、講師に呼ばれた。会場で皆さんと一緒に拝観したのだが、無分作品にも同じ人物が描かれており、等伯はそれを忠実に写し取っただけと分かった。自画像ではなかったのである。

◆描き忘れた捧飯

では、この謎の人物は誰か? これは無分作品からは分からない。そこで筆者は数年前に発見した無分作の粉本と思われる鎌倉時代の涅槃図写真を持参、一同に披露した。その古画ではこの謎の人物が差し出す両手に御飯を山盛りにした鉢が描かれている。つまり、この人物はキノコ料理を供養した「捧飯の純陀」であったのだ。

あろうことか無分爺さんは、差し出した両手までは描き写したのだが、この大切な捧飯の鉢を描き忘れてしまったのだ。それをそのまま等伯が写し取ったため、四百数十年後の今日、とんだ誤解を引き起こした――というのがことの顛末である。分かってみれば他愛もないことだが、絵解きの話題の一つくらいにはなりそうな話である。

現在、この古画は京都の個人所蔵である。『等伯画説』に、能阿弥の鶴図について「この鶴を(京都で)等伯祖父は被見たりと」とあるくらいだから、無分は幾度も京都間を往来し、涅槃図の古画を目にする機会があったものと思われる。当時は七尾が繁栄を極めた時代であった。

また等伯苦心の宝床表現と同じ構図の奈良型涅槃図も、少数派ながら全国各地に残されている。涅槃会で涅槃図を拝観することがあれば、一つこの宝床に注目してみるのも一興であろう。もしうまく見つかれば、拝観の楽しみが倍増すること請け合いである。

《「批判仏教」を総括する⑥》縁起説と無我説を巡る理解 桂紹隆氏10月17日

「運動」としての批判仏教 1986年の印度学仏教学会の学術大会で、松本史朗氏が「如来蔵思想は仏教にあらず」、翌87年には袴谷憲昭氏が「『維摩経』批判」という研究発表をされ…

《「批判仏教」を総括する⑤》吉蔵と如来蔵思想批判 奥野光賢氏10月14日

一、はじめに 私に要請された課題は、「『批判仏教』再考 三論学の立場から」であったが、にわかに「再考」する用意はないので、三論学(三論教学)の大成者である吉蔵(549~6…

《「批判仏教」を総括する④》批判仏教と本覚思想批判 花野充道氏10月9日

1、本覚思想と本迹思想 プリンストン大学のジャクリーン・ストーン教授は、拙著『天台本覚思想と日蓮教学』のレビューの中で、「近年、批判仏教として知られる運動(the mov…

戦争に抗議する グローバル市民社会の未来(10月10日付)

社説10月16日

人口減社会と宗教の役割 地域の人々の心をつなぐ(10月8日付)

社説10月10日

AIの進化の方向 「人間」の領域との関係(10月3日付)

社説10月8日
  • お知らせ
  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
  • 論過去一覧
  • 中外日報採用情報
  • 中外日報購読のご案内
  • 時代を生きる 宗教を語る
  • 自費出版のご案内
  • 紙面保存版
  • エンディングへの備え―
  • 新規購読紹介キャンペーン
  • 広告掲載のご案内
  • 中外日報お問い合わせ
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加