お坊さんヘルパーと宗教法人による介護サービス事業(1/2ページ)
宗教法人西栄寺 介護福祉事業部長 吉田敬一氏
日本は世界でも類例をみない超高齢社会である。
現在65歳以上の人口が3千万人を超え、国民の約4人に1人が該当し、さらに、団塊の世代が75歳以上となる2025年を過ぎると、3人に1人が後期高齢者となり(注1)、今後、医療や介護を必要とする高齢者数は増加する。よって社会は多くの福祉問題に対処していかなければならない(注2)。
これら公共救済の問題は宗教者にとっても他人ごとではない。例えば、信者の高齢化がもたらす布教活動の減少という一片を見ても、その過程を傍観するのか。一方で、宗教者の社会福祉実践が議論されることも多い昨今、宗教者は、この超高齢社会に対しどのように関わるべきなのか。
本稿では、宗教法人・単立・西栄寺による介護事業の実践から、宗教者の介助者として、信者を含む高齢者への支援策と、宗教法人による介護事業の適性と運営について論述する。
私たちは、西栄寺住職・山田博泰より辞令を受け、西栄寺介護福祉事業部を設立し、2014年7月より「お寺の介護はいにこぽん」という事業名で訪問介護事業、居宅介護支援事業、障がい福祉サービス事業、移動支援事業を運営している。
西栄寺介護福祉事業の特徴は、すべての介護事業を宗教法人が当事者となり、事業の許認可申請から介護の現場業務に至るまでを内製化していることと、西栄寺の僧侶たちが介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)を受講し「お坊さんヘルパー」として介護の現場で積極的に活動していることにある。
まず、お坊さんヘルパーの基本業務について解説をする。介護が必要な檀信徒や地域の高齢者の居宅に訪問し、高齢者へのアセスメントを行い、介護実施計画や訪問介護計画を立案、「身体介護」として、排泄、食事、入浴整容、移動などにかかわる介助を実施し、「生活支援」として、掃除洗濯、調理、買い物などの援助を実施することである。
次に、お坊さんヘルパーの特徴について解説をする。介護福祉事業部には、お坊さんヘルパーと共に普通のホームヘルパーも在籍しており、それぞれが高齢者の要望に沿った支援をしているが、通常の介護保険制度に則ったホームヘルパーの業務は、高齢者自身が過剰な介助に依存しないよう自立支援のため必要最低限に抑制されている。
お坊さんヘルパーは、一次的には普通のホームヘルパーとしての介助に徹し、二次的なところで高齢者の信仰に基づいたお話の傾聴、家族との死別による悲嘆へのグリーフケア、また宗教的道具などへの丁寧なアプローチ等、高齢者の心の自立支援を宗教的ケア(注3)で補助する。これら一次的、二次的な支援を場面に応じて連続的かつ重層的に実践することが、お坊さんヘルパーの最大の特徴である。
さらには、高齢者支援だけでなく、普通のホームヘルパーが抱える、体力的また精神的負担を緩和するために、お坊さんヘルパーが後方支援することも欠かさない。
通常の宗教者との違いについても解説しておく必要がある。宗教者は、教義の伝道によって信者の教化を図ることが本分だが、お坊さんヘルパーは、檀信徒を含む高齢者に対する自立支援と利用者本位を重視し、お坊さんヘルパーでいる時は教義で導くことはあえて行わない。むしろ、伝道を行わない時や行うべきではない時にこそ、教外別伝の新たな宗教者の姿があると模索して生まれたのが「お坊さんヘルパー」である。
これより、三つの視点で宗教法人という法人による介護事業の適性について解説をしていきたい。
まず1点目、宗教法人は、宗教法人法第1章第6条により公益事業やその他事業を行うことが認められているので、ほとんどの介護事業が運営できる。しかし宗教者が介護事業の経営にかかわる場合、特別養護老人ホームなどの施設型介護事業を社会福祉法人として経営することが多い。それは、これらの施設型介護事業に対する許認可は、社会福祉法人などの法人に限定されていることと(注4)、これまでの介護事業は施設型介護事業が主流であったことに起因する。