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過去から茫漠とした未来を見つめる ― 自己家畜化、制御する宗教(1/2ページ)

真宗佛光寺派滋賀南教区教務所長 日野英宣氏

2016年2月24日
ひの・えいせん氏=1947年、滋賀県生まれ。京都大工学部大学院博士課程修了。工学博士。滋賀県栗東町(当時)教育委員、同委員長、真宗佛光寺派総務などを歴任。同派称名寺前住職、真宗教団連合滋賀県支部支部長。著書に『信じるものはなぜ救われないのか』など。
時代の節目

昨年、平成27(2015)年は戦後70年の節目の年にあたった。70年と言えば一人の人間の平均的な活動期間であり、携わる世代で言えば3世代である。それはまた「親苦労、子楽、孫貧乏」の格言が示すように、喜びや悲しみ、苦労といった経験値が相続されない年月でもある。国家もその例外ではない。統制経済による平等を謳い文句に建国されたソビエト連邦は、69年で崩壊した。無血革命の明治維新を成し遂げたわが国は、富国強兵の歩みを進め、70年後に日華事変(日中戦争)を経て太平洋戦争に突入し、破綻してしまった。

その敗戦の轍を踏まじと、わが国は、平和憲法を拠り所に高度経済成長の歩みを進め、豊かで便利で長生きという夢のような生活を享受できる社会を築き上げた。しかしながらその一方で、人間形成の原点であり、社会の基本単位である家庭が崩壊の危機に瀕し、少子高齢化の深化に社会保障が破綻するなど、様々な社会的歪みを抱え込むこととなった。

そして、昨年9月には大半の憲法学者の違憲指摘があったにもかかわらず、国会で与党が数の論理で安保法案を強引に通過させた。と同時に堰を切ったように人々が改憲を口にするようになった。加えて、長年にわたり基地問題で苦汁をなめてきた沖縄県が、名護市辺野古への米軍基地の移設に反対の声を上げ県と国が対立する事態となった。

まさに、戦後の歩みが終焉を迎え、新たな歩みを始める時代が到来したのではないか、多くの人々が実感するところである。

自己家畜化現象

戦後70年を経た現代社会を、ゴリラ研究の第一人者の山極壽一京都大総長は、サル化する社会と同定し、警鐘を鳴らしている。

人間はおよそ700万年前にサルと共通の先祖から分かれ、豊かで安全な森林を後に食糧の乏しい危険なサバンナに進出した。そこでまず身につけたのが直立二足歩行である。素早く敵を見つけ、いち早く逃げるためである。

そして、自由になった両手で食物を住処に持ち帰り、皆で食事をするようになった。食事を共にすることで人間は、相手の気持ちを汲み取り、同時に相手の信頼を得るという共感力を養った。それによって人間は、えこひいきの自己犠牲で成り立つ家族と、対等の関係で協力し合う共同体の二つを獲得した。家族と共同体という二つの相矛盾する社会組織を持つのは人間だけで、サルの社会はいずれか一方の社会組織で成り立っている。霊長類の中で人間の赤子だけが泣くのは、家族と共同体で共同保育してきた証しだという。

山極総長は、その人類繁栄の原動力である共感力が、豊かで便利で長生きになった現代社会において、減退し始めたというのだ。

特に顕著に現れているのが食事のあり方である。食事は同じものを顔を合わせて一緒に楽しく食べてこそ食事となる。一緒に食べてもテレビを見ながらでは食事とはいえない。好きなものを好きな時に一人で食べるのは餌でしかない。食事がニワトリ症候群と呼ばれて久しい。一人で食べる孤食、朝食を抜く欠食、一緒でも別々のものを食べる個食、好きなものばかりを食べる固食の頭文字を取って「コケコッコー」になるというのだ。

また、全国共通の189番緊急通報の設置に象徴されるように、戦後始まった核家族が2世代目、3世代目となった近年、幼児虐待が激増している。「反発しながら同化する」というように虐待されて育った者は、自分が親になると親にされたようにわが子に仕返す。しかも倍返しで。共同保育の基盤である家庭が崩壊し、共同体が消滅して親子が孤立すれば、必然的帰結として幼児虐待が生じる。

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