京都市の企業・宗教施設の避難誘導 ― 災害から観光客守るモデル(2/2ページ)
立命館大情報理工学部学部長 仲谷善雄氏
これを受けて緊急避難広場および一時滞在施設となる施設と協定を締結した。14年度には、対象2地域を関係者と現地確認し、清水・祇園地域では大規模な観光客避難誘導訓練を実施した。また京都市全域に緊急避難広場および一時滞在施設を展開できた。情報提供の面では、観光用の無線LAN網を利用して、災害時に多言語で災害・被災情報を提供するシステムも導入。さらに観光地に緊急避難広場に誘導するための道路標識を設置し、観光客向けのパンフレットも作成した。今年度は秋に嵯峨・嵐山地域での避難誘導訓練が計画されている。
事業所対策協議会では、市内に存在する100の事業所を、工場を有する大企業、ホテル・旅館、大規模集客施設、主要な大学・高校の四つの部会に組織し、「帰宅困難者を出さない」方策について検討した。すなわち①鉄道を利用して帰宅する従業員や学生はその場に留め置く②最大3日分の備蓄を備える③統一的な帰宅困難者対策ガイドラインを策定して共有する④各事業所はそれぞれの事情に照らして可能な対策から順次検討実行する⑤それぞれの事業所だけで対応を考えるのではなく、他の事業所や地域との連携を念頭に置く――などである。
100もの事業所のベクトルを合わせることは容易ではない。協議会では高いレベルの一律の対策を強いるのではなく、それぞれの事情を勘案し、できることから順番に実行すること、各事業所で無理なことは他の事業所や地域として取り組んでいくことを強調し、まずは前に進むことを重視した。その結果、様々な取り組みが始まった。筆者の所属する立命館大でも、学生の安否確認システムの導入や、教職員・学生による避難訓練などが行われるようになった。現在、事業所対策協議会の活動としては、年1回の情報共有の場として研修会が開催されている。
ターミナル周辺対策協議会では、観光客の3割強が利用するJR京都駅の周辺対策を検討してきた。観光地対策協議会と事業所対策協議会で検討・実施する対策によって一定程度の観光客や通勤・通学者は駅に向かわずその場に留めるものと期待されるが、それでも駅に向かう人はいる。そもそも駅周辺には10万人もの人がいる。そこで、鉄道会社や駅周辺の大規模施設をメンバーとして①災害時の一斉帰宅の抑制と駅および周辺の人達の緊急避難広場への誘導②周辺施設に避難者を収容するスペースの確保③地域の合同訓練の実施――を中心に活動している。
13年には都市再生特別措置法に基づいて京都駅周辺地域都市再生緊急整備協議会が設置され、本協議会はその下で都市再生安全確保計画部会として活動している。まず京都駅周辺地域都市再生安全確保計画を作成し、基本方針を共有。14年度には、JR東海、JR西日本、近鉄、地下鉄、駅ビル、京都市から630人が参加して真夜中のJR京都駅構内で避難誘導合同訓練を日本で初めて実施した。また駅及び駅周辺に滞留している来訪者を安全に避難誘導するプロセスを図上訓練でシミュレートし、意見交換した。結果、市内の混乱を回避するためには、まずは駅に人が集中しないようにすることが重要である▽特に観光客が多い清水・祇園地域と協力して訓練等を進める必要がある▽観光客等が駅や市民のための避難所に行かないよう適切な情報提供や誘導が必要――などを確認した。
以上のように京都モデルは、ハードウエア的には一定の到達点に達したと言える。しかし、ソフトウエアの面では課題が残る。例えば、緊急避難広場の観光客を鉄道再開後にどのような順番やタイミングで誰が駅に誘導するのか、一時滞在施設に収容する際に誰を優先するのか、などだ。様々な視点から検討し議論したい。また、観光地が対策を考えても、肝心の観光客が避難誘導に従わずに勝手な行動をとっては意味がない。京都市の観光中に被災したら市の誘導に従う、ということを観光客に強くアピールする活動が必須である。
これら一連の対策を検討・進めるに際して、門川大作市長の強いリーダーシップがあることも忘れてはならない。市長は「最大のもてなしは安心・安全である」との考えから、市民やマスコミにメッセージを発信するとともに、ご自身が率先して各種の訓練に参加いただいている。帰宅困難者対策がうまく進んでいない都市も少なくない中で、京都市が着々と対策を進めていけているのは、市民、観光地、事業所などの地元の方々の理解と危機感による部分が大きいことは言うまでもないが、首長のリーダーシップが重要であることを再認識する次第である。