今こそ菩提僊那の継承を ― 新しい座像、東大寺で公開(2/2ページ)
ミティラー美術館館長 長谷川時夫氏
この展覧会に合わせ、インド人の顔立ちをした菩提僊那像づくりの計画が立ち上がった。
菩提僊那継承事業にはまだ大勢ではないが、全国から学生や様々な職業の人々が集う。インド大使や大阪・神戸インド総領事、在日インド人も参加する。その方々が大安寺や、墓所のある霊山寺にも訪れることになる。各寺、それぞれ立派な菩提僊那像、御影が祀られている。かつて大安寺には、修栄が師の遺言に従って制作した菩提僊那僧正像や御影があったと伝わるが、いずれも灰燼に帰している。鎌倉初期に描かれた四聖御影(発願の聖武天皇、勧進行基菩薩、開山良弁僧正、開眼の菩提僊那の四聖が描かれている)の菩提僊那像はインド人を見て描かれたとは思えない。誰ともなくインド人の顔立ちをした菩提僊那像があるといいねという声が出てきた。
そこで、信仰の対象として大事にされてきた四聖御影の菩提僊那を20%ほど、DNAとして入れてもらい、各専門家からの意見を伺い、ワドワ駐日インド大使と話し合い、新たな菩提僊那像を制作した。
インド大使館の協力で仏教遺跡として知られるナーランダのナーランダ大学(インド政府が三蔵法師も滞在した当時の世界の中心としての大学をイメージして再現するという目的で建学した)のパンス副学長の紹介でデリーの3D仏像制作会社が高さ1メートル、重さ30キロの座像(砂岩タイプのグラスファイバー製)を制作し、4月末に日本に到着した。
継承事業はインド大使館、東大寺が共催し、菩提僊那が日本に到着した5月18日に東大寺中門でこの菩提僊那像を初公開し、インド政府派遣の南インド古典音楽の奉納公演を行う。
東大寺で公開後、インド政府派遣の音楽グループの公演とともに、かつての難波の津がある堺の市役所(同20日)、白隠禅師の寺として知られる静岡県沼津市の松蔭寺(同21日)で紹介する。インド大使館や2日間で20万人が来場する世界最大規模のインドフェスティバル「ナマステ・インディア」(9月26・27日、東京・代々木公園)の会場でも紹介していこうと思っている。
これまでの継承事業で、多くの若者が菩提僊那は旅のプロ、しかも命がけの旅をした人で、彼の伝えた仏教などが日本人の精神的基層となっていることを知った。インドとの未来志向の交流の中で仏教を通した精神文化の遺産を現代に生かしていくことは、日本人のアイデンティティーの新たな創造に貢献すると思える。若者にとってカッコイイ菩提僊那の果たす役割は大きいと考えられる。菩提僊那座像を全国津々浦々へインド文化と共にご紹介したい。
※菩提僊那の情報については、「大安寺菩提僊那千二百五十年御遠忌法要の栞」小島裕子記を参照しました。