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被爆70周年の意味 ― 若い人に最新の知識を(1/2ページ)

ヒロシマ・ピース・オフィス代表、前広島市長 秋葉忠利氏

2014年12月12日
あきば・ただとし氏=1942年、東京生まれ。東京大理学部数学科・同大学院修士課程卒。マサチューセッツ工科大でPh.D.を取得後、ニューヨーク州立大、タフツ大、広島修道大等で教壇に立った。衆議院議員を経て99年に広島市長就任。3期12年の在職中、平和市長会議会長を務め、参加都市数約440だった同会議を、約5千に拡大させた。著書に『真珠と桜―「ヒロシマ」から見たアメリカの心』『報復ではなく和解を』『元気です、広島』など。
《原爆の子》

来年は被爆後70年。被爆者の平均年齢も80歳に近づいている。「80」マイナス「70」イコール「10」だから、高齢の被爆者も、1945年時点ではまだ子どもだったのである。

岩波文庫の中のクラシック、『原爆の子』は、生き残った子どもたちが自らの体験をつづった感動的な記録であり、70周年を機に多くの皆さんが再度この本を繙くことになるはずだ。

同時に、原爆によって多くの子どもたちが亡くなっている。これも厳粛な事実である。亡くなった子どもたちの記録として多くの皆さんに読んでいただきたいのが、奥田貞子さん著『ほのぐらい灯心を消すことなく』(キリスト新聞社刊、絶版、現在復刻版出版の準備中)だ。奥田さんは、死を前にした子どもたちの真っ直ぐな言葉と気高い姿を私たちに残してくれた。何物にも替え難い、人間であることの意味と真実が私たちの胸に突き刺さる。

これほどの悲しい思いをしながら亡くなっていった多くの子どもたちが残した「宿題」――戦争も核兵器もない世界を創る――に取り組むことも私たちの責任である。

《世界は平和になっている》

生き残った子どもたちは成長し、被爆者のメッセージも成長し世界に広まった。何より強調したいのは、「こんな思いは他の誰にもさせてはならない」に代表される和解の哲学だ。それは、核兵器の廃絶と核なき世界の実現を目指す世界的なうねりになった。

被爆者の叫びは、科学的な裏付けで強化された。ひとたび核兵器が使われれば、それは人類の滅亡や大量餓死をもたらす「核の冬」や「核飢饉」につながるという科学的な予測が定着した。

86年には、米ソのレイキャビク・サミットで、レーガン、ゴルバチョフ両首脳が核兵器全廃合意の一歩手前までたどり着いた。同年以来、核保有国の持つ核弾頭数は減少の一途をたどっている。さらに核兵器の不使用声明に賛同する国も今年で155に増え、米国の信託統治時代に核実験が行われたマーシャル諸島共和国が、核保有9カ国を国際司法裁判所に提訴するまでになった。国際的な良識を代表する国々が中心になって、これまでノルウェーとメキシコで、12月にはオーストリアで開かれた「核兵器の人道的影響に関する会議」に米国が初めて参加するまでにもなっている。

国際法の面では、63年に部分的核実験禁止条約が締結され、その後も、70年の核不拡散条約(NPT)をはじめ、核兵器以外のものも含めると、化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約、核兵器の使用・威嚇は国際法違反である旨の国際司法裁判所による勧告的意見、対人地雷禁止条約、そしてクラスター弾禁止条約と、着実に成果が上がっている。

米国でも、原爆投下は正しかったと考える国民が45年には85%だったのに対して、最近は67%ほどに変化しており、「核兵器なき世界実現のためのリーダーとして活動する」と表明する大統領まで生んでいる。

それ以上に私たちが見落としがちなのは、長崎以降、核兵器は使われていないという事実だ。

それだけではない。ハーバード大学のピンカー教授は彼の著書『The Better Angels of Our Nature:世界は平和になっている』の中で、次のような事実を指摘する。46年以降、冷戦で対立した2国間の戦争も、その他の「大国」間の戦争もなかった。53年から数えて、紀元前2世紀のローマ以来、最も長い期間、大国間での戦争がなかった時期に当たる。西ヨーロッパの国同士での戦争もなかった。この間、先進国が、他国を侵略して領土を拡張することもなく、逆に多くの国が独立した。また、国際的に認められていた国が侵略により独立を失うことも皆無だった。

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