自然を尊重する「和食」の作法 ― 実用・省略・美を内面に含む(1/2ページ)
弓馬術礼法小笠原教場三十一世宗家 小笠原清忠氏
ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、2013年12月4日にアゼルバイジャンのバクーで開いた第8回政府間委員会において、「和食」の食文化が自然を尊重する日本人の心を表現したものであり、伝統的な社会慣習として世代を越えて受け継がれていると評価し、無形文化遺産に登録することを決めました。この名誉ある登録に対して、果たして私たち現代の日本人に正しい飲食の礼儀作法、心得が身についているのでしょうか。
礼は飲食に始まると言われています。貝原益軒の『五常訓』に「およそ礼の初めは、飲食に始まると『礼記』にいへり。礼なければ、飲食をほしいままにして見苦しく、禽獣の行いに近し。ここを以って飲食の節を慎しむは礼の初めなり」とありますように、飲食における作法は、生活全般の礼儀作法の基本となります。毎日三度の食事を正しく行うことが全ての立ち居振る舞いを正しく身につけることにもなります。
食膳につき、また食後、席を離れる時には一礼をします。これは「いただきます」「ごちそうさま」という感謝の気持ちを表すものです。
昭和40年代より、幼稚園、小学校では「いただきます」には『手を合わせる』ということを始めました。現在ではほとんどの方が『手を合わせる』ものと思われているようです。しかしながら、これは仏教の『合掌』にあたり、神道の『一拍』、キリスト教では『手を組む』と、それぞれ宗教により異なるもので、宗教色のない場では『一礼』することが本来です。
本膳料理では、器の並べ方にも取り決めがあります。雛道具のお膳を思い浮かべてください。食器には器が五つと蓋が四つ、計九つのパーツがあります。昔は雛を飾る時に、各パーツを組み合わせ、並べ方を教えたものでした。現在では家庭での食事においても、蓋付きの飯椀や汁椀を使用することが少なく、雛道具もお膳の上にすでに配置され、しかも固定されたものが流布しているため、ほとんどの方が組み合わせて正しく並べることができなくなりました。
主食であるご飯の入った飯椀が左手前に、右手前には汁椀が、汁椀の向こうには汁気のない煮物など菜(おかず)の平椀を、飯椀の向こうに汁気のある酢の物などの菜が入った壺椀を置き、真ん中に香の物の高坏を置くのが基本です。
飯椀の蓋は椀の内側に沈んでいますが、ご飯は大盛りにするものではありません。少量を暖かい内にいただいてお代わりをするものなのです。
膳の上の右にある物は右手で、左にある物は左手でとります。
蓋をとる場合も、右側にある物は右手で、左側にある物は左手でとります。
最初に飯椀の蓋をとります。左手人差し指と親指で蓋の糸底をつまんで持ち、残る三指を向こうに添えて、手前から向こうに蓋をあおむけて開け、縁に沿ってまわし、膝元まで引き寄せて右手を添えて持ち直し、上向きにして左側にある飯椀の近く膳の下に置きます。次に汁椀の蓋をとりますが、汁椀の蓋は右にありますから、右手でとってから、左手を添えて右手に持ち直し、上向きにして右側にある汁椀の近く膳の下に置きます。汁椀の向こうにある平椀の蓋を同様にしてとり、飯椀の向こうにある壺椀の蓋をとります。食事が終わった時には、壺椀から開けた時とは逆の順に蓋をします。
続いて箸をとりますが、箸は右手を伏せて中ほどをとり、その手をいったん膝元に引き寄せます。膝元で左手を添えて、このときに背筋を伸ばして姿勢を正します。これが箸構えです。食材の命をいただくこと、また食卓に料理が並ぶまで、生産者から多くの人の手を経ていることに感謝を示す姿勢となります。
次に右手を箸に沿って回し、箸を持ち直します。箸の上のほうを持つと粗相しやすくなるため、中ほどを持つことが大切です。深く握らず筆を持つような気持ちで持ちます。
下にある箸は、親指と人差し指の付け根および薬指の先で支えて固定します。人差し指と中指で挟んだ上にある箸を、親指を軸にして中指で動かします。