日本のカルト問題 ― 被害防止へ宗教者の役割大切(2/2ページ)
浄土真宗本願寺派布教使、日本脱カルト協会カウンセリング部会員
棚原正智氏
しかし、このようなパンフレットを作っただけましなのかもしれません。他の伝統教団の幾つかは、カルトに対する無知と無関心から、逆にカルトの応援をしているような場面が見受けられます。例えば、霊感商法で有名な教団と関係が深いと指摘されている新聞に大きく記事として扱われる、名刺広告を出すなどという行為は、いかがなものかと思います。
また、ある新々宗教の施設に伝統仏教の僧侶が見学に行ったことが、その教団誌の記事となって掲載されるといったことが続いています。これは他の教団だけではなくて、実は西本願寺の僧侶が見学に行った時も同じように、その教団誌に載ったことがありました。何度も見学に行っている僧侶のいる伝統仏教教団の方とお会いしてお話をしたことがあるのですが、なかなか良い返事はもらえませんでした。それは西本願寺にしても同じで、相手方の教団誌に載ったのは問題であるとの認識は示してもらったものの、目に見えるようなアクションは無く、また同じようなことが起こるのではと危惧します。
幾つかの伝統教団はカルトへの啓発パンフレットを作成しています。しかしその多くは、西本願寺のパンフレットと同じく、新生活を始める若い人に向けたものが多いように思われます。先にも書きましたように、カルトの勧誘のターゲットは色々な年齢層に及びます。高校生を中心に広がっているものや、主婦層を中心としたもの、ある程度の社会人を中心としたものなどさまざまです。例えばある地方では、歯科器材の営業マンが信者になった関係から歯科医師を中心に広がっていったなどということも聞きます。カルトは全ての人が入る可能性があるのです。これは、僧侶も例外ではありません。住職や寺院子弟が新々宗教に入信したという事例は幾つもあります。しかし、その事実はタブー視され、無かったことになるのが現状のようです。
教団内に、何かしらの相談窓口やカルトに対する情報収集と情報発信の部署があれば、このようなことも防げたのかもしれません。
第三者的に見てカルトの悲しい所は、カルトのメンバーは勧誘をされて入ってしまった被害者であるのと同時に、勧誘をして新たな被害者を作り出すという加害者の側面も持つということです。ですから脱会してもかつての自分の加害者としての行為に苦しんでおられる方は沢山おられます。このような被害を出さないために宗教者及び教団は何をすべきなのでしょうか。
まずは、カルトに対する認識を深めることでしょう。僧侶間でカルトの話をすると私たちの教団も似たり寄ったりだという声を時々聞きます。しかし、カルトの中では自分の教団批判は出ません(できません)。この辺りから既に大きく違うということを意識してアンテナを張ってもらいたいものです。また、直接的間接的にも協力するようなことは厳に慎しんで下さい。ダライ・ラマが教団施設を訪れるより、近所の住職が教団施設を訪れる方が局地的に見ると影響力が大きいのです。
また、各伝統教団においては、最低限の相談窓口を設けてもらいたいものです。幾つかの教団は人権担当の部門が窓口になっていますが、人権部門は扱う事象が多すぎて、とてもカルトにまで対応できないのが現状ですから。新たな宗教被害を出さないために、私たち宗教者の役割は大切です。