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第3回日・韓・中 国際仏教学術大会 ― 東アジア仏教の対立・論争と意義をテーマに(1/2ページ)

創価大教授 菅野博史氏

2014年7月23日
かんの・ひろし氏=1952年、福島県生まれ。東京大文学部卒、文学博士。東方研究会の専任研究員を経て97年、創価大文学部教授。専攻は、仏教学・中国仏教思想。著書に『法華経入門』(岩波書店)、『中国法華思想の研究』(春秋社)、『「法華玄義」入門』(第三文明社)など多数。

東洋大において、6月21、22日の2日間にわたって、「第3回日・韓・中 国際仏教学術大会」が開催された。総合テーマは「東アジア仏教における対立・論争とその意義」である。この学会は、日本の東洋大、韓国の金剛大学校、中国の中国人民大学の三つの大学による共同の学術大会であり、3大学持ち回りで毎年開催され、第1回はソウル、第2回は北京で開催され、今回初めて日本で開催される運びとなった。

筆者は張風雷氏(中国人民大)の「『但中』と『円中』―天台智者大師の中道思想―」に対するコメンテーターとして、会議に参加する機会を与えられた。日中、日韓の政治的関係が悪化している状況のなかで、3カ国の仏教学者が学術交流を地道に継続していることは、民間の文化交流として重要な意義を持っていると感じる。

初日の開幕式で挨拶した竹村牧男・東洋大学長が総合テーマに関連して、「論争はしばしば勝ち負けを決する場合が多いと思いますが、仏教では、自分の立場の優越性を信じ、その証明に知力を傾ける一方で、相手側の立場の意義も冷静に吟味し、すべて否定し尽くすのではなく、自分の立場の思想体系の中に適切に位置づける営みをしばしば行っているように思います。こうした多元性への寛容な態度が、東洋の一つの特徴ではないでしょうか。またこの姿勢は、今日の多元化した地球社会における異なる価値観の衝突を、融和へと適切に導く機能を発揮することでしょう」と指摘したことには同感である。

竹村氏が示した仏教の姿勢は、いわゆる包括主義に該当するものである。ジョン・ヒックのように、包括主義を古い排他主義的ドグマを拭い去ってはいないと批判する向きがあり、簡単に「多元性への寛容な態度」といえないことは知っているが、やはり包括主義の現実的な役割を認めつつ、排他主義に退落することに注意し続けることが重要であると考える。

楊慧林・中国人民大副学長が「仏教とキリスト教の対話における阿部正雄の特別な価値」という基調講演をされた。阿部正雄氏のキリスト教の解釈について、キリスト教神学者が「キリスト教のテクストに対する仏典釈義学」であると批判したとき、阿部氏は「私がキリスト教を論じるときの基準が、それが仏教に符合するかどうかではなく、キリスト教の霊性に符合するかどうかである、ということを心から願っている。もし対話の双方が相手の内在的な霊性を捉えることができ、自身の存在論と価値論を相手に押し付けるのでなければ、宗教間の対話は適切で有効なものと成り得る」と答えたという話を紹介された。

筆者は宗教間対話に関心を持ち、対話を通じての自己の宗教の変容、深化、豊穣化に対して開かれた態度を持つことが重要であると考えるので、阿部氏の発言に共感を覚える。

さて、今回の総合テーマは対立と論争を表に出している。論争といえば、仏教とそれ以外の思想・宗教との論争もあるが、今回の会議は過去の東アジア仏教史における仏教内部の論争を扱ったものがほとんどであった。

今回の発表のなかで私が最も興味を持ったのは、張文良氏(人民大)の「澄観の慧苑に対する批判と華厳宗の祖統説」であった。どこに興味を持ったかというと、もちろん張氏の論文の内容に関わるのであるが、むしろ張氏の結論とコメンテーターの崔鈆植氏(韓国・東国大)の結論がまったく相違した点であった。慧苑は法蔵の弟子の上首であったが、とくに教判思想に関して法蔵のそれを改変し、その点を澄観によって厳しく批判された。この澄観の影響を受けた宗密や浄源が、慧苑を華厳宗の祖統から除外したといわれる。

慧苑の法蔵の教判に対する改変とは、次のようなことである。法蔵には五教判(小乗教・大乗始教・大乗終教・頓教・円教)と四宗判(随相法執宗・真空無相宗・唯識法相宗・如来蔵縁起宗)とがあり、前者は『華厳経』の至上性の宣揚を、後者は新訳唯識に対する批判をそれぞれ意図したものであったが、慧苑はその異なる意図を無視して、五教判と四宗判とを折衷して、迷真異執教・真一分半教・真一分満教・真具分満教の四教判を提示した。

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