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雑司ヶ谷鬼子母神堂が国重文に指定 ― 熱烈な郷土愛に支えられ(2/2ページ)

立正大名誉教授 渡邊寶陽氏

2017年9月20日

「子孫の末々までも、法華清浄の信心を忘れ給うべからず。されば、世間・仏法共に時々の興廃は世の常なり。祖師清浄の法水濁り、潔白の法義、時にあわず成りぬ。我れ、この時、悲といえども為方なし。上意違背の旨をおそれ、家のため、子孫のためを思うが故に、天台宗の名を借ること、これ内心の信心清浄に修行せんが為なり。しかしながら我が本意にあらず。乞い願わくは、子孫の末にても、法水清浄の法義、御赦免の時節到来候て、早速に我が来たりし日蓮宗に立ち帰り、英心山日通寺を本化弘通(『法華経』の奥義にもとづく日蓮聖人の教えを継承する道)の霊地成り給えるにおいては、何よりの孝行と、満足は限りなし。是れ我が大願にて候なり」

論考篇は、「鬼子母神堂と法華信仰」の筆者である日本女子大学名誉教授・永村真博士の多年におよぶ調査・研究と、多くの研究関係者との共同作業に依るところが大きい。永村博士は、まず『遊歴雑記』により、「寛文八年(一六六八)に鬼子母神堂の境内地二千百坪が『除地』(今日的に言えば境内地)となり、その寺域内の堂宇周辺には、新たな社や奉納の石塔などが林立することになった」ことを述べ、「鬼子母神信仰の高まりとともに増加する参詣者に対応して、土産物の『麦わらの角兵衛獅子』をはじめ『風車』や『川口屋の飴』の土産物が生み出され、元禄年中には江戸の名所に相応しい景観が形作られた」ことなどを紹介している。雑司ヶ谷・鬼子母神の光景が見事に描写されていて、うれしい。

以降、永村博士を中心とする研究が、「庶民信仰の確立」近江美佳、「建築について」上野勝久、「鬼子母神堂の成立と発展」国分真史、「自昌院の生涯にみる鬼子母神堂建立の意義」佐藤妙晃、などなど現役研究陣の諸氏によって綴られている。

図版篇では今に伝わる「鬼子母神堂」の全景が、角度を変えて撮影されており、芸術的観点からの解説が加えられる。驚くのは「法明寺鬼子母神堂彫刻目録」である。時代とともに、鬼子母神信仰者が奉納した鬼子母神像36点に加えて、諸尊の彫像についての調査が刻明に記されている。

鰐口・花瓶・香炉・梵鐘・銭箱・武芳稲荷堂棟札・鏡・仏器膳・経箱など64点の仏具についての詳細な調査記録には、多くの信徒、それも庶民と目される方々の名が見られる。講中など集団での奉納が多いようである。

奉納額は、東京都指定文化財「三人静白拍子」をはじめとする数々の絵馬の写真と調査記録が収録されている。日頃なにげなく見ている「奉納額」をよくみると、それぞれに価値の高い内容を発見するのである。さらにまた、現代に至るまで各界の著名人達が、小さな絵馬を奉納している。本坊の法明寺に参上すると、現代の「絵馬」の息吹に感動するのである。

戦火奇跡的に逃れる

雑司ヶ谷「鬼子母神堂」は、奇跡的に第2次大戦中の焼夷弾爆撃をまぬがれた。本坊の法明寺の諸堂等は、すべて灰燼に帰したのに対して、まことに奇跡的に生き残った。また、法明寺の歴代住職が、戦後の息苦しい風潮のなかで、終始その保存につとめた。それがあってこそ、永村博士による研究への関心も深められたのであろう。

テレビなどで紹介される鬼子母神堂とその周辺の風景は、われわれに楽しみを与えてくれる。だが、このお堂の保存は、豊島区の多くの人びと、殊に雑司ヶ谷地区の人びとの熱烈な郷土愛によって支えられてきたのである。また歴代住職、殊に先代近江正隆師は、戦後の軽薄な風潮のなかでもその意義を深く理解し、お堂の保存と、周辺住民諸氏のゆたかな信仰心を大切にしてきた。

その結果が報われて、雑司ヶ谷「鬼子母神堂」が国の重要文化財に指定されたことを心から喜びたいと思う。

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