多文化世界、他宗教へ理解を ― イスラム・ハラール通して(2/2ページ)
大阪芸術大教員、国際交流事業会社取締役 佐藤真由美氏
ただ世界統一ルールは無く、イスラム諸国各国で宗教者が判定を下しその国の実情に合わせたルールが策定されており、輸出に関しては輸出先のルールに合わせる必要がある。明文化されたルールが早くから整備され国策として推進してきたマレーシアの例が有名だが、イスラム諸国それぞれ微妙に違いがある。日本国内で流通するハラール食材はイスラム諸国からの輸入が多い。イスラム教徒が鋭利なナイフでコーランの一節を唱えながら絶命させた鶏や牛でなければハラールとは認定されないため鶏はその処理をしているブラジルから、牛肉は豪州からの輸入が日本国内消費のかなりの部分を占めているのが現状だ。
空前のムスリム観光客増は日本各地の観光地や産業、国際交流や貿易の大きな可能性を秘めた「第2の黒船来航」といっていいほどのインパクトを持っている。世界人口の3分の1に上るイスラムの人々との出会い。だが、世界のメディアのほとんどは欧米のキリスト教徒やユダヤ教徒によってハンドリングされている。聖地エルサレムの宗教施設や聖なる歴史的建造物をめぐる対立のニュースが連日世界を駆け巡っている。
写真撮影されること、報道やメディアに登場することに否定的なイスラム教徒の謙虚さから、欧米の大国や先進国の主張ばかりが目立つ国際報道。私たちは「テロ」や「残虐」という非イスラム・メディアの報道を鵜呑みにせず、「なぜこれほど信者が多いのか?」という疑問に答えてくれるような素敵なイスラムの人々に出会う第一歩を踏み出さねばならないのではないか? インドネシアやアフリカ北部、アフガニスタンや中東、英国やアメリカで私が出会った素朴で信義に篤く心優しく控えめで信心深いイスラム教徒の友人たちの素顔に出会ってほしいと切望している。
現在、筆者の会社「アジール・フィリア」は、在日イスラム教徒だけで組織されたハラール認証機関「国際イスラム交流支援協会(IICA)」のサポート、日本国内の企業や団体との橋渡し、在日イスラム教徒や留学生の暮らし向上の支援を目指している。
IICAは4年前から活動を始め日本で4番目、関西で初めてのハラール認証機関で、幾つかのモスクのイマームと連携し、各省庁や都道府県や地方自治体、教育委員会などと連携して教育や啓発、ビジネスサポートなども行っている。
ハラール認証を取得した食材が日本国内で増加することは、選択肢の少ない在日イスラム教徒の日々の食生活に多様性を付加することと同時に、日本人・日本人社会がハラールという宗教的規範を知り異文化や多様な宗教に出会い学ぶという社会教育的意義がより大きいと感じている。
9・11以降、欧米(つまりキリスト教徒がほとんどを占める)のメディアからイスラムに関する歪曲された報道があふれている。誤解ばかりされているイスラムという文化や宗教背景を持つ人々を正しく理解してほしいという思いが筆者には強い。国連UNDP職員として戦乱直後のアフガニスタンで学校建設プロジェクトを担ってきたこともあり、子供たちの表情や保護者たちとの思い出も蘇る。
イスラムの聖典のひとつ『ハディース』に記述されている聖なる食材「クジラ肉」のハラール認証を水産庁関係者と連携して行ったことでIICAは一躍有名になった。彼らとの協力でハラール認証和牛肉の国内供給も近く開始する。春からは都内の大手調理師学校でイスラムの教義や文化と共に各国料理の講習会をコーディネートする依頼も受けている。5年後に迫った東京オリンピックに向けての動きだ。
大手家電店の片隅の階段踊り場で1日5回のメッカ礼拝を行っていたイスラム教徒がガードマンに誰何されるという笑い話のような実話。世界を巡ってきて日本ほど多文化・他宗教に関する基本的知識が乏しい地域は珍しいと思ってきた。それは独特の文化や社会を守っている独自性と奥深く長い伝統・歴史の魅力の裏返しでもあり、島国性とも言えるのだが、国際化時代を迎えてステレオタイプのイスラム理解から脱却し、ハラールを通じてイスラム教徒やイスラム文化に出会い直すチャンスを生かしてほしい。