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都市開教と過疎地開教の展望 ― 顧客中心の伝道へ移行必要

浄土真宗本願寺派西方寺住職・本願寺派東京仏教学院講師 西原祐治氏

2016年10月19日付 中外日報(論)

にしはら・ゆうじ氏=1954年、島根県生まれ。龍谷大卒業。浄土真宗本願寺派築地本願寺に奉職後、93年に千葉県柏市に宗教法人「西方寺」を設立、初代住職に。東京ビハーラ会長、龍谷大大学院非常勤講師などを歴任。著書に『ありのままの自分を生きる』(徳間書店)、『脱常識のすすめ』(探究社)、『浄土真宗の常識』『親鸞物語―泥中の蓮花―』(朱鷺書房)など。
《教団のコアは何か》

江戸時代の寺院機能は、集会所、娯楽享受の場、学校、役所など、多くの役割を担っていた。ところが近年、自治体の充実や社会構造の変化により、寺院が果たしていた機能が公共施設等へ移譲され、生命線である法事・葬儀さえも、都市部では、先祖意識の希薄化と宗教者派遣業の進出により役割を失いつつあります。

失われていく寺院機能の中で、失われることのない浄土真宗寺院の“核”(コア)とは何か。私は、その核となるものが「安心」だと考えます。安心できる教え、安心できる場、安心できる人間関係、安心できる商品。これからの寺院の役割を考えるとき、“安心”に関わる情報や教え、コミュニティーを社会へ発信していくことが重要です。

伝聞によりますが、セオドア・レビット(1960年の論文)が、当時のアメリカの鉄道について述べた有名な話があります。

鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体が、そうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。

鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。

現在の宗派においても同じことが言えます。現在、教団が供給している教えや法事を中心とする伝道から、顧客中心の伝道へと移行する必要があります。供給するコアとなるものが“安心”です。

《都市と過疎地の共通性》

過疎地域では、人の空洞化と自治機能の空洞化で、寺院収入が見込めません。現状の都市部では、離郷門信徒の存在で寺院収入は潤っていますが、先祖という意識の消滅と単身世帯の急増によって、団塊の世代が平均寿命に達する20年後の2036年以降は、法事・葬儀を収入源とする寺院モデルが成り立たなくなります。共通するのは、現在の法事葬儀を主な収入源とする寺院形態からの脱皮です。

対応としては、過疎地域では、人の空洞化、自治体機能の空洞化に対応した伝道モデルと寺院機能であり、都市部では、み教えや人と人の関係性の空洞化に対応した伝道モデルと寺院機能です。

また都市開教の現場である東京圏と過疎化地域、まったく異なる環境ですが、共通するものは、未信者への伝道であり、檀徒を超えた人々への対応です。私は都市開教に従事するものですが、いくつかの提言をしてみます。

①寺院モデルの多様化

従来の寺院は、一つの完成された形態ですが、極端な話、老人介護施設や他の商売をしていても伝道は可能です。儀式を中心にしなければ公共施設や貸しホールなどの活用も有効です。寺院モデルを柔軟に考えることが重要です。寺院モデルの多様化は、収入源の多様化でもあります。

また寺院を僧伽と解釈した場合、各地の真宗系サークルや社会問題に取り組む集団も、一つの寺院モデルともいえます。その地域で、念仏者が社会問題に取り組み、真宗的な価値観や考え方を発信していく。大学の真宗系サークルも一つの寺院モデルと解釈して伝道を展開していくべきでしょう。

②伝道ソフトの構築

現在の代表的な伝道は、権威を拠り処にして法を授けるといった形態です。そのためには伽藍や袈裟、僧侶、教典といった権威的なものが有効です。しかし、人々の苦悩に対する活動にあっては、権威は役に立ちません。その苦悩に対応できる伝道ソフトの構築が望まれます。

人は苦しみを通して、自らの価値観がゆらぎ、そして新しい価値観に開かれていきます。苦しみの場こそ、新しい価値観を手に入れる場なのです。苦悩に対応する伝道ソフトは、相手が他宗の人であっても有効に活用できます。

③伝道教学の創設

浄土真宗の学問の基本は真宗学(宗学)であり、宗学をベースとした現代教学の研鑚は重要です。そうした学びと共に、“伝える”“伝わる”“共感する”といった生活のレベルで、どう現代の病理とリンクし、み教えを表現できるのか、生命倫理など現代を取り巻く諸問題に対応した教学が望まれます。

④接着剤的機能の充実

2025年には、すべての都道府県で一人暮らしが最も多い世帯構成になり、その5年後、一人暮らし世帯の全世帯に占める割合が37・4%に拡大し、東京都の45・5%が一人暮らし世帯(単独世帯)になるといわれています。

世帯数で言えば、1953年の総世帯数が1718万世帯、一昨年(2014年)が5043万世帯と3倍近くに増加しています。核家族化・単身世帯を結ぶもの、つながりは、職場や地域などが担っていましたが、生活スタイルの多様化により、従来の組織は、接着剤的な機能が失われつつあります。今こそ「浄土真宗」という括りの中で、安心につながる教えも含め、人間関係や種々のサービスを提供することが求められています。個人を単位として信頼をつくっていくネットワークの構築です。過疎化地域にあっては、地域の生活を支える拠点としての寺院づくりです。

⑤伝道者の多様化

先の寺院の収入源の多様化同様、伝道者も寺院に固定化する必要もありません。理想的には、本願寺派が経営する公益施設に伝道者を雇用して、過疎地域等への伝道に従事させることがベストです。学校や一般企業に籍を置いて伝道を営むことも考えられます。従来、住職以外の職業に就く兼業寺院は、消極的寺院形態とする見方でしたが、学校や他の組織の中で真宗的考えをどう敷衍するかという立場から見れば、兼業寺院は最先端の形態だともいえます。伝道者を僧侶に限定し、伝道の場所を寺院に限定する、その考えそのものが伝道の限界をつくっています。

⑥寺院間ネットワークの活用

本願寺派がもつ資源の一つは、1万を超える寺院です。そのネットワークをどう活用するのか。本願寺派に所属する門信徒が加盟するウェブ上における仮想商店や、ネットワークを生かした門信徒の移動に対する情報交換、法務の代行など、可能性は大です。

現在の寺院は地域門信徒のための施設に終始しています。日本全体の真宗門信徒のための寺という位置づけがありません。その寺の歴史や独自の活動などを紹介する情報の発信があれば、プライベートでの旅行でお寺を訪問することもできます。そのお寺を通して、その地域の文化に触れる。

これは各地の別院も同じです。その地域のための情報発信に終始していますが、別院へ行けば、その地域の歴史や地域独自の情報、特色のある寺院の紹介が手に入る等の、他地域のための情報発信が求められます。首都圏もふくめ、地方の一寺院を、全国の寺院へ解放していくという文化の醸成と内容の充実が求められます。

⑦在家衆徒の活用

浄土真宗本願寺派の僧侶の特徴の一つに、在家衆徒の多さが挙げられます。それは本来、在家仏教であることと、通信教育の充実によって形成されました。

都市部であれば、在家衆徒の人たちが、自宅や公共施設などで、家庭(地域)法座を展開し、宗派(教務所)は、講師派遣等によりバックアップしていく。

過疎地域の寺院へは、年金で生活を確保できる在家衆徒を再教育して、10~20年の限定で、代務住職として各地に派遣することです。まずはそのモデル地区を設定して実働することです。

⑧宗派財源の多様化

寺院収入の減少に伴い、宗派財源の減収は明らかです。寺院ではなく宗派への帰属意識をベースとした本願寺、あるいは宗派独自の会員システムの構築、あるいは宗派自体が収益事業や株式会社等の外郭組織による収入増をはからなければなりません。半永続的に関わることのできる門信徒を核とした頭脳集団の結成が必要です。僧侶中心の運営形態からの脱皮が求められます。