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お坊さんヘルパーと宗教法人による介護サービス事業

宗教法人西栄寺 介護福祉事業部長 吉田敬一氏

2016年6月24日付 中外日報(論)

よしだ・けいいち氏=1969年、兵庫県生まれ。98年に西栄寺(浄土真宗単立)山田博泰氏に師事。現在、同寺の介護福祉事業部長。2004年、中央仏教学院通信専修課程修了。12年、東北大大学院実践宗教学寄附講座「臨床宗教師研修」修了。
福祉問題と宗教者

日本は世界でも類例をみない超高齢社会である。

現在65歳以上の人口が3千万人を超え、国民の約4人に1人が該当し、さらに、団塊の世代が75歳以上となる2025年を過ぎると、3人に1人が後期高齢者となり(注1)、今後、医療や介護を必要とする高齢者数は増加する。よって社会は多くの福祉問題に対処していかなければならない(注2)。

これら公共救済の問題は宗教者にとっても他人ごとではない。例えば、信者の高齢化がもたらす布教活動の減少という一片を見ても、その過程を傍観するのか。一方で、宗教者の社会福祉実践が議論されることも多い昨今、宗教者は、この超高齢社会に対しどのように関わるべきなのか。

本稿では、宗教法人・単立・西栄寺による介護事業の実践から、宗教者の介助者として、信者を含む高齢者への支援策と、宗教法人による介護事業の適性と運営について論述する。

お寺の介護はいにこぽん

私たちは、西栄寺住職・山田博泰より辞令を受け、西栄寺介護福祉事業部を設立し、2014年7月より「お寺の介護はいにこぽん」という事業名で訪問介護事業、居宅介護支援事業、障がい福祉サービス事業、移動支援事業を運営している。

西栄寺介護福祉事業の特徴は、すべての介護事業を宗教法人が当事者となり、事業の許認可申請から介護の現場業務に至るまでを内製化していることと、西栄寺の僧侶たちが介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)を受講し「お坊さんヘルパー」として介護の現場で積極的に活動していることにある。

お坊さんヘルパー

まず、お坊さんヘルパーの基本業務について解説をする。介護が必要な檀信徒や地域の高齢者の居宅に訪問し、高齢者へのアセスメントを行い、介護実施計画や訪問介護計画を立案、「身体介護」として、排泄、食事、入浴整容、移動などにかかわる介助を実施し、「生活支援」として、掃除洗濯、調理、買い物などの援助を実施することである。

次に、お坊さんヘルパーの特徴について解説をする。介護福祉事業部には、お坊さんヘルパーと共に普通のホームヘルパーも在籍しており、それぞれが高齢者の要望に沿った支援をしているが、通常の介護保険制度に則ったホームヘルパーの業務は、高齢者自身が過剰な介助に依存しないよう自立支援のため必要最低限に抑制されている。

お坊さんヘルパーは、一次的には普通のホームヘルパーとしての介助に徹し、二次的なところで高齢者の信仰に基づいたお話の傾聴、家族との死別による悲嘆へのグリーフケア、また宗教的道具などへの丁寧なアプローチ等、高齢者の心の自立支援を宗教的ケア(注3)で補助する。これら一次的、二次的な支援を場面に応じて連続的かつ重層的に実践することが、お坊さんヘルパーの最大の特徴である。

さらには、高齢者支援だけでなく、普通のホームヘルパーが抱える、体力的また精神的負担を緩和するために、お坊さんヘルパーが後方支援することも欠かさない。

通常の宗教者との違いについても解説しておく必要がある。宗教者は、教義の伝道によって信者の教化を図ることが本分だが、お坊さんヘルパーは、檀信徒を含む高齢者に対する自立支援と利用者本位を重視し、お坊さんヘルパーでいる時は教義で導くことはあえて行わない。むしろ、伝道を行わない時や行うべきではない時にこそ、教外別伝の新たな宗教者の姿があると模索して生まれたのが「お坊さんヘルパー」である。

宗教法人による介護事業の適性

これより、三つの視点で宗教法人という法人による介護事業の適性について解説をしていきたい。

まず1点目、宗教法人は、宗教法人法第1章第6条により公益事業やその他事業を行うことが認められているので、ほとんどの介護事業が運営できる。しかし宗教者が介護事業の経営にかかわる場合、特別養護老人ホームなどの施設型介護事業を社会福祉法人として経営することが多い。それは、これらの施設型介護事業に対する許認可は、社会福祉法人などの法人に限定されていることと(注4)、これまでの介護事業は施設型介護事業が主流であったことに起因する。

2点目は、1点目に対し、国の施策として今後は、医療と介護は連携を深めながら在宅支援へと移行しつつある(注5)。それに沿って介護事業を展開するなら、訪問介護事業や居宅介護支援事業、またはデイサービスといわれる通所介護事業などであり、これらは宗教法人も許認可の対象である。

3点目は、宗教法人の中でも特に仏教寺院は、檀信徒に対し命日参りや棚経など仏事的な訪問の支援を今まで積み重ねた実績がある。これは訪問型の介護事業者からみれば得難い能力なのだ。

これらの要素を体系的に評価すれば、宗教法人は在宅支援での介護事業に適しているうえ、その意義も極めて大きいといえる。つまり、宗教法人にとって、信者の高齢化に対し宗教者自ら介助者になることで、密度の高い関係性を築きつつ高度な伝道が可能になる。さらに、宗教法人の介護事業者として、信者のみならず地域包括ケア(注6)の枠組みの中で、地縁に溶け込みながら宗教法人の秘めた能力を発揮できれば、地域福祉事業の連携において強い牽引力になる。

教義の伝道を行う宗教者としては檀信徒よりお布施をたまわり、お坊さんヘルパーとしては介護保険報酬を国民健康保険団体連合会より受け取ることにより、寺院と介護事業両方を支えることができる。法人税法上、宗教法人による公益事業の収益は課税対象に該当するため(注7)、宗教法人が介護事業で得た収益は、特別会計処理をして納税義務を果たさなければならない。

宗教離れや無宗教の台頭を解消するなら、宗教法人は時代の季節風にのって大きく舵を切るべきだ。そのために宗教法人は積極的に収益事業を行い、法人の運営を充実させることが肝要だ。私自身の考えだが、収益事業といっても、あくまで、人びとの苦しみや悲しみに寄り添うような福祉実践が望ましいし、その方が宗教者としての役割は大きい。

どの宗教にも「苦」という真理がある。人びとがもがき苦しむ現場から宗教が生まれてきた、そういう現場にこそ宗教者が求められているのは明らかだ。もともと信仰に基づいた慈善活動が社会福祉に変遷した宗教的史実を読み解きながら(注8)、原点に帰ることで、宗教者としての在り方を組み立て直す必要があるのではないだろうか。

宗教法人の在り方

西栄寺介護福祉事業は、2016年度、地域の訪問介護事業所連絡会の会長役を任された。これは、お坊さんヘルパーや宗教法人の介護事業が、地域で認められ期待されている表れだ。さらに、西栄寺の境内地に、3階建て延べ床面積約864平方メートルの、デイサービス及びサービス付き高齢者向け住宅の建設も始まった。デイサービスでは比較的元気な高齢者を対象に、生活の質を維持するための生活リハビリテーションに重点を置いた支援を計画している。2・3階のサ高住に関しては、主に終末期の高齢者を看取るための施設として、地域の病院や診療所との間で協力医療機関契約を締結した。

私はこのような成果に甘んじることなく、公共救済の渦中で宗教法人がどうあるべきか、また宗教者の求められていることは何なのか、今一度、福祉実践の中に身を預け、己の信仰を確かめつつ、苦しい道のりではあるが、石にかじりついてでも探究することを宣言して本稿を結ぶ。

(注1)内閣府 高齢社会白書
(注2)厚生労働省 社会保障審議会 介護保険部会(第45回)資料4(2013年6月6日)
(注3)谷山洋三『医療者と宗教者のためのスピリチュアルケア』(中外医学社 2016年)
(注4)厚生労働省 社会保障審議会 介護保険部会(第45回)資料3(2013年6月6日)
(注5)厚生労働省 在宅医療・介護の推進について
(注6)厚生労働省 福祉・介護 地域包括ケアシステム
(注7)国税庁 介護サービス事業に係る法人税法上の取扱いについて(法令解釈通達)課法2-6(2000年6月8日)
(注8)佛教大学通信教育部編 『社会福祉学』 佛教大学