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女性研究者たちの「絆」 ― 国際宗教学宗教史会議大会報告

名古屋工業大 川橋範子氏、愛知学院大 小林奈央子氏

2015年12月4日付 中外日報(論)

 かわはし・のりこ氏=1960年、東京生まれ。プリンストン大大学院博士課程修了。名古屋工業大大学院教授。日本宗教学会理事。主な業績に、『ジェンダーで学ぶ宗教学』(田中雅一氏との共編著、世界思想社、2007年)、『妻帯仏教の民族誌 ジェンダー宗教学からのアプローチ』(人文書院、12年)など。
 こばやし・なおこ氏=1973年、愛知県生まれ。名古屋大大学院博士課程修了。博士(文学)。愛知学院大文学部宗教文化学科講師。日本山岳修験学会評議員。主な業績に、『木曽御嶽信仰とアジアの憑霊文化』(共著、岩田書院、2012年)、『「講」研究の可能性』(共著、慶友社、13年)など。

2015年8月23日~29日、ドイツ中央部に位置するエアフルトで第21回国際宗教学宗教史会議(IAHR)が開催された。世界各国から1300人を超える研究者が集まり、多くの基調講演やパネル発表が行われた。筆者たちが参加したパネルを紹介しながら、これまでの国際宗教学宗教史会議における女性研究者とのつながりを簡単に振り返ってみたい。

ちょうど10年前の05年は、盛況を極めたIAHR東京大会が開催された年であった。東京大会では、基調講演とそれに基づくパネルの一つが、宗教とジェンダーのテーマに特化されていた。川橋は、この「境界と差別」と題されたパネルの司会を務めたが、今回エアフルトで、その時のパネルの指定討論者であったウルスラ・キング氏と再会できたのは大きな喜びであった。キング氏は欧米の宗教とジェンダー研究のパイオニアであり、IAHRで最も雄弁な女性研究者の一人でもある。

06年には、IAHRの中に、「女性研究者ネットワーク」(Women Scholars Network=WSN)が、前会長のロザリンド・ハケット氏(テネシー大学教授)と前理事のモーニイ・ジョイ氏(カルガリー大学教授)によって立ち上げられた。彼女たちの呼びかけに触発された、宗教研究を行う世界各地の女性研究者が次第に糾合し、09年の第3回SSEASR(IAHR南・東南アジア地区大会)バリ大会、10年の第20回IAHRトロント大会、11年の第4回SSEASRブータン大会などにおいて、多くの女性研究者たちが発表を行ってきた。

09年の第3回SSEASRで小林はジョイ氏を座長とする、宗教と女性をテーマとしたパネルに参加し、日本の霊山と女人禁制問題について発表した。同大会でジョイ氏は女性研究者による複数のパネルでコーディネーターやコメンテーターを務めていたが、国や研究テーマを超え、女性研究者の育成に積極的な氏の姿がいまも印象に残っている。また、第20回のIAHRトロント大会では、筆者たちを含む日本人女性宗教研究者5人で「日本におけるジェンダー宗教学」(Gendering Religious Studies in Japan)と題するパネル発表を行い、コメンテーターにジョイ氏を迎えた。そこでは日本の宗教学界ではフェミニズムおよびジェンダー研究は、学問的中立性のないものとみなされ、正しく理解されていない現状などについて報告したが、会場には、日本やドイツからの男性研究者もいたことを記憶している。

10年にはWSNのメーリングリストが始動し、世界のどこにいても、宗教と女性研究に関わる研究会や新書の情報、公募の情報などが入手できるようになった(wsn-L Info Page)。現在、WSNには、欧米、中南米、アフリカなどを代表して18人の運営委員がいるが、アジアからは3人の女性(川橋を含む)が運営委員に加わっている。残念ながら日程の関係で筆者たちは参加できなかったが、学会後半の27日にはWSNの会合が持たれた。70人を超える女性研究者たちが参集し、ジョイ氏たちの貴重な仕事を引き継ぐ、新コーディネーターの若手女性たちが紹介されたという。

筆者たちは、こうしたWSN設立以降に開催された研究大会において知り合い、名刺を交換し、自国の現状などを語り合った女性研究者たちと今回のエアフルト大会でも再び出会った。かつてはハケット、ジョイ両氏に先導されながら発表に臨んでいた若手研究者が、今回は自分でパネルを組織したり、大学で専任のポストを持つ第一線の研究者としてそれぞれの国で活躍していることを知った。両氏を中心とするWSNの活動が、時間をかけながら多くの女性宗教研究者をエンパワーし、成果を出していることが察せられた。また、WSNの設立が研究者同士の横のつながりを生み出し、大会を重ねるごとにその関係が深化していると感じられた。その意味で、継続的に大会に参加し、宗教と女性、あるいは、フェミニズム・ジェンダー宗教学といったテーマでの発表を続けていくことには大きな意義があるといえる。

今回のエアフルト大会においてはWSNから女性の積極的な参加や発表が呼びかけられ、特に女性に対する暴力や、宗教と人権に関連する発表を募っていた。川橋は今大会にプログラム委員の一人として関わっていたが、発表申請のプロポーザルの査読段階で、5年前のトロント大会以上に、先鋭化されたジェンダーやフェミニズム関連の発表が多くなっていることに驚かされた。筆者たちはフランクフルトからエアフルトまで特急を利用したが、その車内で、伝説的なフェミニスト宗教心理学者であるナオミ・ゴールデンバーグ氏(オタワ大学)と同じコンパートメントに乗り合わせる、という幸運に恵まれた。道中、アカデミーの家父長制の逸話とともに、最近の学会で一種の流行となっている、「女性たちは様々な制限の中でも主体を発露させている」という予定調和的な論議について、「それは刑務所の中でもケーキを焼く機会があるから主体を発揮しているというのと同じようなものでは?」という強烈なスパイスのきいた発言を聞くことができた。

筆者たちは、大会2日目の午前中に、Changing Women's Roles in Contemporary Japanese Religions(1)(現代日本宗教における女性たちの役割変化)と題するパネル発表をドイツ人女性の日本宗教研究者2人と行った。また、当日の午後には同題名の(2)として発表者が異なるもうひとつのパネル発表が行われた。筆者たちが参加した(1)においては、パネル代表者のモニカ・シュリンプ氏(テュービンゲン大学)がパネルの趣旨を述べた後、最初の報告者であった小林が、「女性が『霊山』へ入るということ:大峯奥駈修行を事例に」と題し、男性だけが参加できた大峯奥駈修行に、1960年代以降女性行者はどのように参加する道を開いてきたのか紹介した。また、女人禁制問題解決のためには、従来のように修験本山側が男性の信仰や修行に対する姿勢を問うだけでなく、本山の組織の中に女性の委員を増やし、女性行者が発言しやすい環境を整えることが重要であると指摘した。続いてシュリンプ氏が「現代日本における仏教尼僧の自己認識」と題し、一般的に女性僧侶はその地位や儀礼の場での役割において男性僧侶よりも劣位に置かれているが、人々の日常生活に密着したところでは高い能力を発揮し、宗教者として女性特有の役割を担っていると発表した。最後に、ミラ・ゾンターク氏(立教大学)が「日本におけるキリスト教フェミニズムと宗教間対話の関連性」と題し、現代の日本で活動するフェミニスト神学者たちやキリスト教の女性組織を紹介した。日本のフェミニスト神学者は、神学的にはもちろんのこと、活動家としても活躍し、キリスト教の様々な変革に関わっているが、その活動は日本のキリスト教団の中でもあまり評価されておらず、周辺化されていることを指摘した。

コメンテーターの川橋は、一種のハイパー・マイノリティーとしての日本のフェミニスト神学運動に関する発表について、欧米では一定の評価を得ているフェミニスト神学という学問が、なぜ日本では異端視され続けるのか、ゾンターク氏の考察を興味深く受けとめた。男性中心主義的な権威に依拠する神学研究では、フェミニスト神学の解釈はあくまでも恣意的なテキスト解釈であり、学問的な中立性や客観性を欠くものとみなされることが多い。ただでさえキリスト教徒が少数派である日本で、フェミニスト神学の存在を主張し影響力を増やすためにはどのような戦術があるのか、建設的な議論の必要性を強く感じる、と述べた。また、シュリンプ氏の日本仏教の尼僧の現状に関する報告については、ジェンダーの役割概念が女性にとってのエンパワーメントの手段でもあり、また性役割を演じることによって獲得するメリットがあるという解釈は、さらなる具体的な事例の抽出が必要なのではないか、と問いかけた。そして、女性たちの自己理解や自己実現の認識が、男性たちの側にどのような影響力や変革の意識を与えうるのか、それこそが明らかにされていかなくてはならない、とコメントを結んだ。

また、午後からの(2)の発表では、ゾンターク氏をパネル代表者とし、ローズマリー・ベルナール氏(早稲田大学)が「神職:神道における女性の現代的意義」、ビルギット・シュテムラー氏(テュービンゲン大学)が「女性ヒーラーの能力と信頼性を証明するためのオンライン戦略」と題して発表し、後者に関してジョイ氏が、スピリチュアリティーの商品化の点からコメントをした。日本の宗教と女性研究のパネルであったにもかかわらず、午前と午後のパネルを合わせると様々な国々からの男性を含む参加者が50人ほど集まり、うれしく思った。

翌日の25日には、ハケット氏とジョイ氏によるWomen's Rights and Religions(女性の権利と宗教)と題されたパネルが開かれ、現在世界で多発する、「人権としての女性の権利」と「伝統とされる宗教」がせめぎ合う事象について、近年の理論的観点からの議論がなされた。写真からもわかるように、会場は実に多様な人種・民族的背景の女性たちであふれ、主催者たちからも驚嘆の声が上がっていた。フロアから、ヒンドゥー教の行者による女児への性的虐待を研究する白人女性が、このような問題とどう向き合えばよいのか苦痛に満ちた表情で質問していたのが印象的であった。

今回のIAHRだけでなく、現在、アメリカ宗教学会(AAR)でも、宗教や国籍の境を超えた、女性宗教研究者たちの連帯と相互支援が盛んになっている。今後日本の宗教研究においても、同様の取り組みがより充実することを期待している。