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社会的養護・CSPという考え方 ― 望ましい行動を効果的に躾る

防府海北園副園長 岩城淳氏

2015年5月29日付 中外日報(論)

いわき・じゅん氏=1975年生まれ。佛教大卒業後、山口県立大大学院健康福祉学部健康福祉学研究科(博士前期課程)修了。山口県内の情緒障害児短期治療施設、児童相談所一時保護所の指導員などを経て、2013年から児童養護施設防府海北園(防府市)副園長。社会福祉士。コモンセンス・ペアレンティング(CSP)トレーナーオブトレーナー。周南市・浄土真宗本願寺派徳応寺衆徒。
1.児童養護施設

「児童養護施設に足を運ばれたことのある方、どれくらい、いらっしゃいますか?」。私は、いろいろな方々の前でお話をさせていただく際に、まずこの質問をします。多くの場合、児童養護施設の認知度は1割にも満たないのが現実です。そこで、私が副園長を務める児童養護施設防府海北園の話から始めさせていただいています。

防府海北園は、戦後多くの戦災孤児と言われる子どもたちが、生活の場に困り、生きていくことに困難を感じていた時代に浄土真宗本願寺派の僧侶であった私の祖父・岩城眞也が、戦争のために親を亡くしてしまった子どもたちと、共に生きて行こうと私財をなげうって創設しました。その後、息子の満が志を引き継ぎ、時代のニーズに合わせた社会的養護を展開してきました。現在は、約70人の子どもたちが防府海北園で生活をしています。

児童養護施設とは、保護者の疾病や経済的困窮等、何らかの理由で親と一緒に生活のできない子どもをお預かりして、安心安全な生活の場所を提供し、私たち職員と呼ばれる大人が寄り添い、支えていく。簡単に言えばそういう場所です。

現在は、児童養護施設は生活単位の小規模化に着目して、大きい建物から小さい建物への移行が進められています。大きい建物の中を区切って生活単位を小さくするユニット化や、地域に家を建て、または借りて生活するグループホームの形です。さらに今後の社会的養護では、里親活動も大きな割合を占めることになっていくでしょう。

親と一緒に生活できないのには、様々な理由がありますが、近年問題となっているのは、児童虐待です。ネグレクト(育児放棄)も含めると、児童養護施設で生活する子どものうち約6割は虐待が主な理由と言われています。

2.児童虐待

虐待というと、もちろんニュースで流れるような悲惨な事件もありますが、年間7万件にものぼる多くの虐待通告や相談の裏には、子育てに悩んでいる保護者の姿があります。多くの虐待は、相談場所がなく助けがなく、周りの目がないところで、子どもと向き合って発生しているのです。私は、望ましくない関わりをしてしまった保護者に対して、そして子育て支援のツールとして、コモンセンス・ペアレンティング(CSP)というプログラムを通して支援を行ってきました。

3.CSPという考え方

コモンセンス・ペアレンティングは、行動療法の理論背景をもとに全米最大の児童福祉施設であるガールズ&ボーイズタウンで開発されました。ロールプレイを使って、子どもの問題行動を減らし、望ましい行動を効果的に躾られるプログラムです。このプログラムを「児童養護施設神戸少年の町」の当時児童指導員だった野口啓示先生が日本に持ち帰り、日本の文化に合わせて開発、効果検証を行ってこられました。

4.躾(しつけ)

CSPを「望ましい行動を効果的に躾られるプログラム」と紹介しましたが、子どもを躾ようとして、うまく躾られない、期待する行動をしてくれないのはストレスになります。私は、虐待の原因の一つとして、「ストレス」を考えます。

ストレスは蓄積します。例えば、「昨夜から夫婦げんかをしていて、仕事がうまくいかず、なんだか熱っぽい、子どもが泣いている登園前の朝の状況」を想像してみてください。

子どもが泣いている朝の状況だけならストレスにならない人もいるでしょう。しかし、ストレスの重なった状況を考えると、虐待という問題は、身近に感じることができるのではないでしょうか。

ストレスに対しサポートがある環境というのは大切になります。いろいろな虐待ケースと関わったときに感じるのは、「非常に追い詰められた状況がある」ということです。

最近は、何らかの発達障害の話など、子どもとの関わりそのものに対する不安を聞くこともあります。まじめな母親ほど悩み、それに対するサポートがうまく機能しなかったとき、自分が本来したくなかった行動をしてしまう可能性があります。そうした状況で、たたくという行動をとってしまうこともあります。

5.なぜたたくという行動をとってしまうのか

CSPでは三つの理由に着目します。

一つは暴力的躾の持つ即効性です。躾に対して効果は無いのですが、怒鳴る、たたくといった行動に対し、その場で子どもの問題行動が止まったように見えると「子どもが言うことを聞いた」と親や大人の側が学習してしまいます。そうすると親や大人はその行動をとりやすくなります。

しかし、それは大人の側が学習しているだけで、子どもたちは望ましい行動、してほしい行動を学習していないことが多く、躾にはなりません。なぜかと言うと、その問題行動は継続するからです。同じ状況で子どもとぶつかってしまうということは、その時とった、怒鳴る、たたくといったアプローチでは、躾の効果は無いということです。

次に、「暴力的な躾」以外の躾を知らないことが考えられます。身体的虐待の多くは、躾ようとして起こっています。そして、親の権威の喪失への恐れです。私の講演会に参加する父母から「子どもがなめるんです」という話を聞くことがあります。子どもと真正面からぶつかっているのです。

6.CSP流躾のヒント

親が子どもに対して「しまった」と思う場面は、怒っている、カッとしているときに起こりやすく、まずは落ち着くことが重要になってきます。

CSPでは、「落ち着くヒント」として、どんな場面でカッとなりやすいかを知り、自分の生理的な反応(例えば、顔が熱くなる、早口になる、頭に血が上る等)を知ることで、自分の状況を客観的に見ることを意識し、そのような時にどんな方法で落ち着くかを決めておきます。

次に「効果的な褒め方」を学びます。子どもとの関係性が悪いと、うまく躾られない。さらに厳しい躾から、関係性のさらなる悪化に陥ってしまいます。これを連続性のある良い関係に変えるには褒めることが重要になります。

私たちは、子どもの問題とされる行動に気付き、注意をしますが、良い行動を見過ごしてしまうことが少なくありません。

例えば小さい子に、靴をそろえて脱ぎなさいと教えています。その子が靴を脱ぎ散らかしていると、「靴そろえてね」と注意します。しかし、靴がそろっている場面で、これを見過ごしてしまいます。

するとこの良い行動は強化され難く、学習する可能性が下がってしまいます。悪い行動の反対は良い行動。良い行動をした時に褒める。廊下を走るのが悪い行動だったら、歩いた時に褒める。海北園の職員には、子どもに指示を出して、それに沿った行動をしたら評価するよう伝えています。

褒めることで、良い行動を増やし、職員との関係性も良くなることが期待できます。

そして、「分かりやすいコミュニケーション」という話をします。これは、あいまいな表現を無くし、分かりやすく伝えるということです。

例えば「今からレストランに行くから、ちゃんとしているのよ」や「今日はいい子にしていてね」といったあいまいな言い方ではなく、「レストランでは走り回らないで座って食べようね」と指示することです。このようにCSPでは、望ましい行動を具体的に伝える方法を学ぶことができます。

浄土真宗本願寺派をはじめ伝統仏教教団では、生老病死の現場に向き合うビハーラ活動が展開されています。

私にとってのビハーラ活動とは、父・満の残した次の言葉です。「子どもたちが幸せになれば社会はもっと明るくなる。社会がもっと明るくなればよりたくさんの子どもたちが幸せになる」。これを胸に、子どもたちが抱える悩みや苦しみに寄り添っていきたいと思っています。