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公益法人の収益事業課税要件 ― ペット葬祭業判決を読み直す

同志社大教授 田中治氏

2015年5月8日付 中外日報(論)

たなか・おさむ氏=1952年生まれ、愛媛県出身。京都大大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。大阪府立大教授などを経て、現在、同志社大教授。専門は税法学。京都大学博士(法学)。主な著書に『アメリカ財政法研究序説』『租税行政と権利保護』など。
1 宗教法人と法人税

本稿では、公益法人(その中に宗教法人が含まれる)に対する法人税の課税について、収益事業に対する課税がなぜ、どのような要件の下でなされるべきか、その理由と限界は何かを検討する。なお筆者は、かつてこの問題を詳しく論じたことがある(「宗教法人のペット葬祭業の収益事業該当性」『税務事例』43巻5号48ページ、2011年)ので参照されたい。

法人税は所得課税の一類型であり、所得を課税対象とする。所得とは「もうけ」のことであり、一般に収益から費用を引いた利益を意味する。所得を得る典型的な法人は株式会社等の営利法人である。

なぜこのような営利法人に法人税を課すか、という理由として通例、法人擬制説の考え方が示される。すなわち、法人は個人(株主)の集合体であるから、法人の利益は個人に行き着くはずであり、法人税は、配分される個人の所得に対する課税の前取りであると説明する。

第1に、公益法人が営利法人と決定的に異なる点は、公益法人は営利を目的としない上、仮に一時的に所得(剰余金)が生じた場合でもそれを個人に分配しない、ということである。したがって、本来の事業(非収益事業)に課税をしないのは優遇措置でも特権でもなく、法人税の課税の論理から来る当然の制約にすぎない。

第2に、憲法上当然のことであるが、法人税は、宗教法人だけに税を課したり、課さなかったりする仕組みを採用していない。宗教法人の本来の事業(非収益事業)に対する非課税は、公益法人課税の論理に基づくものであって、何も宗教法人の利益を特に考慮して作ったものではないことに注意する必要がある。

この点、ペット葬祭業に関する地裁判決が、上記非課税の制度を「優遇措置」と解した上で、その根拠として、「宗教法人が非営利法人であることを求められ、しかも、そのことを担保するために所轄庁による監督に服している点が重視されていると解することができる」とするのは、疑問である。

この考え方は、法人税の論理を無視することに加えて、宗教法人法が宗教法人に対する規制立法であるかのように考える点で、関係法令を適切に解釈するものとはいえない。

第3に、法人税法は非収益事業と収益事業とを区別し、公益法人の非収益事業からの所得については非課税と定める(4条1項、7条)。収益事業の定義はそれほど明確ではなく、販売業、製造業その他の政令(法人税法施行令5条)で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。収益事業として、現行法上、34の事業が特掲的、限定的に掲げられている。

第4に、最高裁判決で一定の結論が出たということと、国会が関連の法律を作った、あるいは変えたということとは、その法的効果は全く異なる。とりわけ税法の領域では租税法律主義が憲法上の原則であり、租税に関する国民の権利や義務を左右するのは税法律のみである。

判決は、対立する当事者間の紛争に決着をつけるために裁判所が示した個別的判断であって、事実上の影響力はともかく、その法的効力は当事者間にしか及ばない。なお、判決において示される裁判所の理由づけには必ずしも十分とはいえないものもあり、時には裁判所が法解釈を誤る場合もある。

2 ペット葬祭業判決の概要と問題点

天台宗の宗教法人が、死亡したペットの飼い主から依頼を受けて葬儀、供養等の事業(ペット葬祭業)を行っていたところ、税務署長が当該ペット葬祭(葬儀、火葬)は請負業に、遺骨処理とその管理(納骨堂、墓地管理)は倉庫業に当たるなどとして、収益事業として課税処分を行った。これに対し、この宗教法人は、当該事業は宗教法人の本来的活動に当たり、非課税であるなどと主張したが、いずれの審級の裁判所においても、受け入れられなかった。

2008(平成20)年9月12日の最高裁判決は、問題の事業が請負業等に該当するか否かは、支払われた対価が、役務の対価なのか、当該事業が他の一般事業と競合するか否か、などを踏まえ、当該事業の目的、内容、態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に判断すべきだとしている。

第1に、最高裁判決は、社会通念に照らした総合的判断をいうもので、これはそれなりの合理性はあるものの、社会通念等の意味内容はなお不明である。

第2に、最高裁判決は、そもそもなぜ公益法人の本来的事業(非収益事業)が非課税なのか、についての言及はない。判決は、法人税の論理(個人所得税の前取り)に全く触れていないが、このことは、収益事業課税の理由と限界を理解するための前提を見失わせるものである。

第3に、最高裁判決は、収益事業該当性の判断基準として、「対価性」と「競合性」を挙げているが、これらの判断基準の相互の関係や比重は定かではない。また、一定の教義と様式を備えた宗教行為と競合する一般事業とは何か、そのようなものはありうるのか、という基本的な問題にも触れていない。

第4に、最高裁判決は、問題の事業がなにゆえに請負業、倉庫業等に当たるかという個別の事業該当性を判断していない。法人税法が求めているのは、問題の事業が「収益事業一般」に該当するか否かの判断ではなく、特掲された事業のうち、個別の「請負業」「倉庫業」等に該当するか否かである。判決がなぜ、その判断を収益事業一般に広げたのか、その理由は定かでない。

例えば、宗教法人がペットの遺骨を納骨堂において管理することをもって「倉庫業」と断定することへの躊躇があったのかもしれない(倉庫業は寄託を受けた「物品」を管理するものである)が、これも推測の域を出ない。

3 収益事業該当性の判断枠組みの基本

第1に、法人税に関し収益事業該当性を判断するにおいては、上記のとおり、非収益事業はなぜ非課税か、という出発点に立ち帰ることが基本である。

第2に、その上で一般の事業者との競合性を理由として、利益を分配しない公益法人についても、例外的、限定的に収益事業課税がなされるものというべきである。

第3に、収益事業と非収益事業を分けるもう一つ別の基準として対価性がいわれるが、この基準は、漠然としたものであり、かつ多義的である。

例えば、ペット葬祭業に係る一連の判決は、具体的に3種類の葬儀形式と6段階の重量等を組み合わせた18の確定金額の存在に着目し、依頼者の支払金額は任意のものとはいえず、宗教法人が提供する「役務の対価の支払い」であるとする。裁判所は、本件の金員の支払いは、給付と反対給付の対応関係が明確で、場合によっては債務不履行の追及が可能な事案であるとみて、対価性という基準を用いたということができるであろう。

とはいえ、この対価性という基準は、解釈如何でその範囲が変わりうる。給付と反対給付との関係を緩く解することによって容易に課税の強化をもたらすことになりかねない。

このように考えると、収益事業課税の一般的基準としては基本的に、当該事業が対価性を持つかどうかではなく、競合性基準によるべきである。ペット葬祭業に関していえば、当該事業が対価性を持つかどうかが問題ではない。収益事業は対価を得るものではあるが、逆に、対価があるから当然に収益事業であるということはできない。宗教上の教義や様式に基づいて霊の鎮魂や飼い主への癒やしという事実があるかどうかが決定的であり、それが一般の事業との大きな違いを示している場合には、競合性はなく、非収益事業であって、非課税というべきである。

第4に、法人税法にいう収益事業であるためには、34の特掲された事業のいずれに当たるかを明示する必要がある。そこでは、当該事業はどのような内容、性質のものか、一般の事業と競合する事業かどうかを中心に、個別具体的に吟味されなければならない。法の組み立てからすれば、一般的な収益事業該当性の判断でとどめることはできないというべきである。

以上、ペット葬祭業に関する一連の判決には多くの法的疑問が含まれている。宗教界にとっても大きな問題が残されたといわざるを得ない。