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アイルランドカトリックの影響低下 長年の権利運動の成果

津田塾大助教 山田朋美

2015年7月1日付 中外日報(世界宗教地勢)

5月23日、アイルランドは世界で初めて、国民投票により同性婚が合法化された国家となった。同国では2011年にパートナーシップ制が導入され、同性カップルも異性カップルとほぼ同様の法的権利が認められるに至ったが、養子縁組は認められないなど完全には平等とはいえない点があり、同等な権利を求める動きが高まっていた。

行われた国民投票では投票率が60%を超え、うち賛成は62・07%を占めた。とりわけ若者の多くが賛成票を投じたという。このニュースは国外でも大きく報じられ、これを「社会革命」と評した者も少なくなかった。

今回の国民投票の結果がこのように驚きを持って迎えられたのは、アイルランドにおいてカトリック教会が伝統的に大きな影響力を持ってきたためである。全人口の84%がカトリック信者であるというだけではなく、イギリスからの長年にわたる支配により独自の文化が失われていくなかで、カトリック信者であるということがアイルランド人のアイデンティティーの重要な一要素となってきた。それゆえ、イギリスからの独立後もカトリック教会は強い力を持ち、また公立学校の多くを運営したこともあり、教会の倫理観が法律や人々の生活・価値観形成に大きな影響を与えてきた。

このような国で同性婚賛成派が圧勝した背景としてまず指摘されるのは、カトリック教会の影響力低下である。それまでのカトリック教会の在り方を省みて、人びとに対し、「開かれた教会」となることを方針の一つとして定めた第二バチカン公会議(1962~65年)以降、アイルランドでも教会について自由に議論できる雰囲気が生まれていた。

高等教育の普及も相俟って、カトリックの教えを相対的に捉える視点が養われたこと、90年代の好景気によって人々が急激に豊かになったことにより「伝統的」価値観が失われたこと、2002年以降明らかになった聖職者による児童虐待の実態と教会側による事実の隠蔽、そして12年に起こった流産直前の女性が人工妊娠中絶手術を受けられず亡くなるという悲劇などが、アイルランドの人々にカトリック教会とその教義、そしてそれらと社会の関係に対する疑問を抱かせ、教会の影響力を低下させた。

しかし、今回の国民投票の結果を導いたのはそればかりではない。アイルランド国内外で連綿と続いてきた社会運動も大きな役割を果たした。アイルランドのフェミニズム運動や欧米の同性愛者解放運動に刺激を受け、1970年代にはLGBTの権利を訴える活動がスタートした。アイルランド同性愛者権利運動(IGRM)などが結成され、同性愛者の法的平等を求める活動を国内のみならずヨーロッパレベルでも展開してきた。今回の結果はまさに彼らの長年の運動の成果ともいえよう。

この「社会革命」は、国内においては人工妊娠中絶の合法化といった、女性に関する「残された」課題への影響が、国外においては北アイルランドやオーストラリアといった、まだ同性婚が認められない地域への影響が指摘されている。

アイルランドのマーティン大司教は国民投票後のインタビューで「教会は現実に向き合う必要がある」と述べたが、この言葉はカトリック教会だけではなく、性的志向と性同一性を理由とする差別を抱える全ての社会に向けられたものと捉えるべきであろう。

やまだ・ともみ氏=専門は国際関係論、国際交流、アイルランド研究。主な論文に「戦間期日本におけるアイルランド認識」などがある。