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風鐸

宗教や社会の諸情勢について思いをつづるコラム。軒下につるした風鐸の音色のように、読者の心に響くことを願って……。

機事ある者は

2017年3月15日付 中外日報

都会の電車で10人の客がいれば、その7~8人はスマートフォンをいじっている。こんな日常の光景にもはや驚きもしないが、手のひらサイズの機械に、そんなに心奪われて生きていいのかとつぶやきたいときもある◆機械文明の発達で人間は何を得て、何を失ったのかを考えるとき、禅家の用いる「冷暖自知」の言葉を想起する。冷たい熱いは触ってみればすぐ分かる。本当のことは体験を通して悟るしかないということだ◆機械文明の精髄であるコンピューターは、この先どこまで進化するのか。囲碁や将棋で人間が対手のAI(人工知能)に悪戦苦闘する姿からすれば、AIが人間の知能を超えるばかりか、プログラムを自ら改良して成長するという仮説が現実のものとなる日も遠くないのかもしれぬ◆機械の発達によって人間は消費エネルギーと目的達成の時間を節約した。余った時間を新たな労働と生産に使うことで便利で豊かな生活を手に入れる。これこそが人類を果てしない競争に駆り立てる現代文明の原理であり、それは同時に人間喪失の仕組みに他ならないと思われる◆中国の思想家・荘周は『荘子』外篇に「機械ある者は必ず機事あり、機事ある者は必ず機心あり」と言っている。機械を扱う者は機械に依存し、ついには人間性の喪失に至るという2300年前の人間洞察には、さすがにAIも及ぶまい。(形山俊彦)