ニュース画像
「誠」の隊旗を掲げた五重塔院で営まれた法要
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

<連載・断面>信仰運動 第3回

2014年10月15日付 中外日報

「つくしあい運動」、実動に至らず

「『つくしあい運動』という言葉も聞いたことがなかった」。真言宗智山派の30歳代の青年僧は、宗団関連施設に勤務するようになって初めて、自分の所属宗派に教化運動の動きがあったことを知ったという。

智山派は1969年、新宗教の布教攻勢や各伝統教団の信仰運動が展開される中、「つくしあい運動」を提唱した。仏と人、人と人、寺と檀家などが互いの関係を大切にし、尽くし尽くされる“相互供養”の間柄で教化を進めていこうといった意味が込められた。

本尊統一反応鈍く

「大いなる力にめざめ 尊い いのちを生かします」などの「誓い」と「信条」各3カ条を策定。この言葉を収め、表紙に「生きる力」と印字された手帳は、教師だけでなく檀信徒にも配布された。宗団僧侶の意識を統一し、檀信徒教化につなげようとの狙いだった。

80ページある本文では、大日如来の大慈悲のもと、あらゆる存在が互いに生かし合っているという曼荼羅思想を平易な言葉で解説。また七五三や結婚など、人生の節目でお寺に参ることの意義も詳細にまとめられた。

各寺院の反応はなく、「深い教学理解に根差した教化活動を目指したが、学びを深めようという僧侶は多くなかった」。当時の事情をよく知る小峰一允・三寳寺住職は振り返る。「本尊統一に関しても理解の不一致から、一部の僧侶から批判が上がった」

運動を全宗団一体となって推進するため、各寺院の本尊を大日如来に統一することが企画されていた。74年の総本山智積院の調査によると、各寺院で祀られている本尊は、不動明王が453カ寺(22%)と一番多く、大日如来は438カ寺(22%)。以下、観世音菩薩(16%)、阿弥陀如来(13%)などが続く。しかし約8割の寺院で変更を迫られるこの措置に、「長年祀られ人々の信仰を集めてきた本尊を突然変えることはできない」と、応じようとする寺院は少なかった。

不明確なまま霧消

内局は73年に同運動の具体的展開策として教化規程案を作成したが、委員会や公聴会で時期尚早などと否定的な意見が相次いだ。「運動」という言葉の響きにも抵抗感があったという。そして運動の扱いがあいまいなまま、「つくしあい運動」という用語は使われることがなくなっていった。

小宮一雄・宗務総長は「大日如来に帰一する曼荼羅思想の尊重こそが教化の原点。つくしあい運動は宗団の教化運動としては未完成に終わったが、その精神や理念は今日まで脈々と受け継がれている。目標と年次テーマを設定して展開している現在の教化活動は、運動が成熟した一つの形といえるのではないか」。

運動の名称こそ使われなくなったものの、その後も教学と教化について研究は続けられた。教学を研究する智山伝法院、教化活動の効果を高めるための智山教化センターが設立され、97年には「真言宗智山派教化規程」が制定された。教化に積極的に取り組んでいこうという空気が、運動を契機として宗内に生まれ、そのためには子弟教育が重要だという認識も高まった。

反省踏まえ研修会

現在は教化センターが中心となって、4年ごとの教化目標と年次教化テーマを設定。これに基づき教化リーフレットの作製や、教師・寺族向けの研修会が実施されている。以前の不徹底の反省の上に立ち、片野真省・智山教化センター長は「テーマや理念を住職に理解してもらうため、研修機会をつくっている。また寺院の現状を踏まえて具体的活動を提案していきたい」と話す。すでに写経や御詠歌、阿字観などの会を実践例として催している。

2013~16年度の教化目標は「生きる力―安らかなる心をともに」。運動提唱当時の標語が用いられている。