ニュース画像
「誠」の隊旗を掲げた五重塔院で営まれた法要
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

<連載・断面>都市開教⑤

2014年6月18日付 中外日報

敷居低い「カフェ」だが 入り口から一歩奥へ

JR東京駅前にそびえ立つ新丸ビル。流行の先端を行くおしゃれな店舗や飲食店が入るこの複合施設の1階エントランスホールに、厳かな雅楽の調べが響く。きらびやかな法衣をまとった僧侶らが隊列を整え静々と進む様子を多くの人たちが見守った。ある伝統教団に所属する地方寺院の東京分院が、これまで縁が無かった人たちにも仏教に関心を持ってもらおうと企画したイベント「寺カフェ」のオープニングセレモニーだ。

「僧侶は寺から一歩外へと踏み出して人々の中に入っていかなければ駄目だ。今の人たちが何を考えているのか肌で実感することが大切。『このようなイベントが伝道か』と批判する人たちもいるが、ご縁づくりにはいろんな方法がある」

おしゃれなカフェで飲食を楽しみながら伝統的な仏教の声明に聞き入るなど趣向を凝らした内容。1週間の期間中に数千人が来場したことを受け、主催者の住職は「いずれは都内に常設の『寺カフェ』を開きたい」と話しており、こうした動きは高野山真言宗総本山金剛峯寺や臨済宗妙心寺派などの本山・教団レベルでもすでに始まっている。

金剛峯寺は2007年から都内で南海電鉄と共同で「高野山カフェ」を開いている。一般にとっつきにくいイメージがある仏事を前面に出すのではなく、写経や若手僧侶との会話などを通して気軽に仏教に触れられる設えが好評で、昨年は10日間の期間中に20~40代を中心に約7千人が会場を訪れた。

毎年、そして期間中にも何度も訪れるリピーターも多い。金剛峯寺職員でカフェの運営を担当した藪邦彦氏は「都市部での伝道という目的はあるが、信者獲得というガツガツした思いはない。写経などの体験を通し自然な形で仏教の教えに触れてもらいたいという願いが、多くの人たちにも受け入れられているのでは」と言う。

05年に東京都世田谷区に開設された臨済宗妙心寺派の東京禅センターでは、初心者でも坐禅体験ができる椅子坐禅の会「ZEN Cafe」が開かれている。

センターは妙心寺派の都市開教の拠点で、当初は離郷信徒対策にも取り組む計画だったが、信徒の菩提寺との調整が容易ではなく、現在は「ZEN Cafe」などが活動の中心。笛田悦道・センター長は「仏教や禅の入り口となることがセンターの役割」と話す。

「もっと本格的に坐禅を」という人には、都内の寺院を紹介する。紹介を受けた寺院からは「急にお寺で坐禅を始めようとしても、一から作法を教えるのは大変だし長続きしないことも多いが、センターで経験していると違う」との感謝の声も届く。

今枝睦昌・東京教区宗務所長は、センターを拠点に若い僧侶らが同世代の人たちに臨済禅を広めてくれることを期待する。

東京のような人口過密の都市部では、地価高騰で檀家が郊外に移転して分散化が進み、寺檀関係が途絶えるケースもあり、地方に比べて檀家の寺院に対する帰属意識が希薄だとされる。

若年人口の割合が高く、住民が流動的な都市部での布教、伝道は、農山村のように一寺院を中心とした活動では対応できない側面がある。喫茶店のように気軽に立ち寄れる場があれば、未信の人たちにとっても仏縁に触れる「入り口」となる。

問題は、玄関にたたずむ人たちをどのようにしてもう一歩奥へと導くかだ。その明確な手だてを求め各教団は試行錯誤を重ねているが、注目すべきデータがある。

国際比較研究グループ、ISSPが2008年に16歳以上の国民を対象に実施した「ISSP国際比較調査(宗教)」で、宗教の役割、効用として「心の安らぎや幸福感が得られる」「困難や悲しみを癒す」を挙げた人たちの割合がそれぞれ50%、45%もあった。

相愛大(大阪市)教授で宗教学、比較宗教思想が専門の釋徹宗氏は「都市生活はいつも『自分』を守るためにバリアーを張っていなければならない。しかし時にバリアーを下ろし無防備な時間・空間がないと苦しい。だから、人々は宗教的な時間や場所を求める」と、都市住民の宗教性を分析。

そして「人々は自分の抱えている苦悩に対し有効な宗教的情報を求めている。伝統的な人類の智慧(伝統的な宗教)に目を向ける人も少なくない」と言う。