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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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8.地域はお年寄りばかり残っています

2015年4月3日付 中外日報(5度目の春へ-東日本大震災)

去るも残るも放射能苦 故郷の海に誰も行かず

星見住職は毎月命日、鎮魂と復興の願いを込めて鐘を突き鳴らす(福島県南相馬市の岩屋寺で)
星見住職は毎月命日、鎮魂と復興の願いを込めて鐘を突き鳴らす(福島県南相馬市の岩屋寺で)

福島県南相馬市の曹洞宗岩屋寺はのどかな田園地帯にある。周囲に田畑が広がるが、屋外に住民の姿はほとんど見られない。寺の地点は福島第1原発から同心円で21キロに位置し、避難指定は解除された。だが近辺には居住制限区域などが入り組み、複雑だ。星見泰寛住職(50)は「地域はお年寄りばかり残っています」と顔を曇らせた。

田畑の除染は進むが街中はまだまだ。事業所が撤退したので戻っても仕事がなく、避難先で何とか生計のめどがついた若い世代は帰ってこない。警戒区域指定で墓に入れられない津波犠牲者の遺骨を預かっていたのが、ようやく納骨でき、法事や葬儀なども以前並みに戻りつつあるが、規模は小さくなった。

だが、それらが離散した人々が集まる格好の機会。檀家の一部はまったく関係が切れてしまったが、遠い避難先から墓参りに来る人とはじっくり話し込む。「今は縁をつなぎ止める大事な時期です」と気を引き締めた。

去る人も残る人も原発事故の被害に苦しむ。山形へ行った檀家が子供連れで戻ろうとすると、一緒に避難した周囲の人から責め立てられた。除染で線量が下がった田畑は耕作できるが風評で今後が心配。一方で補償は打ち切られる。誰もが放射能の話を避け、農家は「『今年作ったので』と収穫した白菜を隣人が持ってくると断れない」と打ち明ける。「どうしたらいいのか」と問われるが、住職にも分からない。高齢の檀家ほど「もう慣れた」と無理に自分を納得させている。

星見住職自身、若い頃から海が大好きでよく遊んだが「今は誰も近寄らない」と悲しい顔を見せる。「住みやすい、自然の素晴らしい土地なのに、それを汚染されてしまった」。帰るのを断念した人も「故郷はどうなってしまうのか」と不安を訴える。

国の除染基準つまり「これ以下なら大丈夫」という追加被ばく線量値を、帰還促進のため年間1ミリシーベルトから5ミリに引き上げようという動きに、「おかしな話ですよ」と住職は語気を強めた。「ここらでは誰も原発事故が収束したなどと思ってはいない。こんなに皆が苦しんでいるのに、再稼働とは。安全確保もされず、将来に必ず禍根を残しますよ」

自死や震災関連死も絶えない。そんな状況に宗教者としてどう立ち向かうのか。以前より広く社会のいろんな問題に目が向くようになったという。例えば、「いのちは平等に重い」と法話で説くことが増えた。

このように人間の命が軽視されること、戦争やテロも含めて「最も大切なものが奪われるなんて」と語る。他方で、「仮に罪深い人でも過ちのある人でも、恨んだり命を奪ったりすることがない世界にしなければ」と慈悲の心を強調する。

寺が根を下ろす地元では、将来を見据えた町の復興のために働くのが僧侶の役目だという考えだ。もともと過疎、少子化の上に原発事故で子供が激減し、小学校も複式学級になって統廃合の危機にさらされている。住職は、入学前からを想定して市立幼稚園・保育園で安全確保などの体制を整え、幼児が帰還できるよう促すべきだと市へ陳情した。「子供たちこそ地域の希望ですから」。だが、安全性の判断については悩ましい。

集まる機会を増やすために催し物も企画し、伝統行事の「相馬野馬追い」に合わせた坐禅会やカフェ、本堂での落語会やコンサートも開いた。一日楽しく過ごせるようバザーや露店も加え、檀家でもない住民が手伝ってくれることが増えた。すっかりなじみになり、「ずっとここに住んでいたいから」と言う。故郷への思いが通じ合った、その笑顔が住職を勇気づける。

(北村敏泰)