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仏教に指針求めて

在家仏教協会理事長 松田譲氏

2013年8月1日付 中外日報(わが道)

まつだ・ゆずる氏=昭和23年生まれ。新潟大農学部を卒業後、東京大大学院で発酵学や微生物学を学ぶ(農学博士)。協和発酵工業㈱に入社、研究職に従事。総合企画室長などを歴任し、平成15年、社長に就任。キリンファーマ㈱との経営統合を経て、平成20年、協和発酵キリン㈱の社長に就く。現在は同社相談役、在家仏教協会理事長を務める。
加藤辨三郎さんの考え方に多大な影響を受けたと語る松田氏
加藤辨三郎さんの考え方に多大な影響を受けたと語る松田氏

仏教に人生のよりどころと指針を求める在家者の集まりとして昭和27年に設立された一般財団法人在家仏教協会が昨年創立60周年を迎えた。理事長の松田譲氏(65)は、協和発酵キリン㈱の相談役だ。事業活動を進める上で、協和発酵工業㈱の創業者で在家仏教協会初代理事長の加藤辨三郎氏の考え方に多大な影響を受けたという。松田氏に宗教と事業、同協会の果たす役割や辨三郎氏との逸話などについて語ってもらった。

(鹿野雅一)

入社する前は。

松田実家では毎年、味噌を作っていたので、微生物の力を利用して作る発酵食品は身近な存在でした。高校卒業後、地元の新潟大農学部に進学し、微生物はがんや成人病の薬などの研究開発に有用なものだと知りました。さらに研究の道を追究するため、東京大大学院に進み、発酵学のほか微生物学も学びました。その後、協和発酵工業㈱に入社し、初めに配属されたのは東京都町田市にある東京研究所(現・東京リサーチパーク)でした。そこでは微生物から新薬の種を探す研究・開発に従事しました。

研究・開発を進める中で、大きな障壁があったとか。

松田入社して数年後、成人病薬開発において薬の候補となる物質を発見しましたが、自己完結型の組織だったので、なかなか協力が得られませんでした。医薬品の研究は薬の候補となる物質を発見しても薬になるまでに膨大な時間や労力、経費などがかかります。従来の自己完結型の研究では、新しい薬は生まれない。自己完結型の研究からチームワーク型にシフトしていかなければならないと実感しました。

皆で知恵を出し合い、リーダーがそれをまとめ、一つの事に取り組んでいく、そんな組織づくりが重要だと思いました。その後、研究所所長に就任し、組織改革を推し進めていきました。

研究職から経営側に異動した時の心境は。

松田研究所所長としてサラリーマン人生を終えるのが最も好ましいと思っていたので、総合企画室という部署に辞令が下り、研究者としてのキャリアを捨てた時は青天の霹靂でした。しかしグループ全体で7千人を超える社員の生活を守らなければならないと覚悟を決めました。研究者としての実績や成果など自らの過去を全て断ち切るため、専門書や学術書を全て段ボールに詰め込んで焼却しました。

また協和発酵工業㈱の創業者の加藤辨三郎さんが分骨されている冨士霊園にお参りし、「とにかく頑張ります」と報告したのを覚えています。総合企画室に異動した翌年には同社の社長に就任しました。

企業統合に際し、手腕を発揮しましたね。

松田キリンファーマ㈱との経営統合を経て、平成20年に協和発酵キリン㈱の社長に就くわけですが、企業合併に際しては、両社の社員同士の意思疎通を図ることが緊急の課題でした。社員一人一人の意思を尊重し、とことん社員と向き合うことが経営者として大切なことだと思い、新会社の理念やビジョンについて社員自ら話し合える場を設けました。そうして生まれたのが「私たちの志」です。

加藤辨三郎氏の事業活動に対する考え方に、多大な影響を受けたそうですね。

松田加藤辨三郎さんのスピリッツは「事業を通じて世の中の役に立つ」という一言に尽きると思います。製品やサービスを利用してくださる方に喜んでいただくことはもちろん、収益の一部を在家仏教協会の活動資金に還元するなど、社会活動の一環として事業を捉えていました。経営を担う仕事への異動、キリンファーマ㈱との経営統合など、岐路に立たされた時は、辨三郎さんだったらどう判断するかを一つの起点として考え、業務に取り組んできました。

経営をしていく上で、宗教の役割とは。

松田宗教は、いかに生きるかを問い掛けてくれるものだと思います。実家は神道なのですが……。神道は八百万の神で自然崇拝です。仏教には自然の中で生かされているという教えがあります。生かされているという点では共通するものがあると思います。アップル社の創業者の一人で、禅の信仰者でもあったスティーブ・ジョブズ氏は「自分は人類の歴史の中で生かされている。だから人類に役立つ画期的な製品やサービスを生み出して世の中に還元したい」とおっしゃっていました。これは辨三郎さんの「事業を通じて世の中の役に立つ」という考え方と寸分の違いもありません。生かされているからこそ精いっぱい世の中のために還元する。そういう意味では、宗教と事業、経営はつながってくると思います。

在家仏教協会は創立60周年を迎えたわけですが。

松田医療や医学の発展により、日本の平均寿命は近年延びています。定年退職後の余生をどう過ごすか、今まさに問われています。宗教は、いかに生きるかという人生の指針を問い掛けてくれるようなものだと思います。同協会が毎月、全国各地で行っている宗教関係者による講演会や月刊誌『在家仏教』などを通して、気軽に仏教に触れていただきたい。これからの余生をどう生きるか考えるきっかけにしていただければと思っています。