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「忖度」する社会 守るべき自由を考えよう

2017年5月3日付 中外日報(社説)

ワシントンDCにはNEWSEUMという博物館がある。NEWSとMUSEUMを合成した名称である。ホワイトハウスと議事堂を結ぶ大通りに面している。

館内には「報道の自由は民主主義の礎石である」と記された石板状のものがある。入り口には自由の内容として、宗教、言論、報道、集会、請願の五つが示されているが、宗教の自由が第一に掲げられているところが米国らしい。

ベルリンの壁の一部など実物もあるが、多くは画像、映像、パネル等を用いての展示である。近現代において記憶すべき出来事は何かを分かりやすく示している。

2月上旬に同博物館を訪れたのは、トランプ大統領が7カ国の国民の米国入国を90日間禁止する大統領令に署名した直後だった。イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7カ国が対象にされていた。

テロ対策が名目だが、過去の米国内のテロ事件の首謀者の出身国と照らしても、まったく根拠のない措置として、多くの報道関係者も強く批判した。イスラム圏の国々への差別あるいは無理解を露呈したものといえる。入館者が大統領令に対する賛否のシールを貼るコーナーが設けられていて、反対のシールが圧倒的に多かった。

NEWSEUMの展示内容とその基本姿勢に接すると、やはりそれに照らして日本の報道の自由が現在どのような状態に置かれているかを考えずにはおれない。中東に取材に行った日本人ジャーナリストが危険にさらされたときなどの日本社会の反応を思い起こすと分かりやすい。

例えば2015年にシリアでジャーナリストの後藤健二氏が殺害された事件があった。NEWSEUMには取材中に殺害された数多くのジャーナリストの写真を掲げるコーナーがあり、後藤氏の写真もその活動の説明と共に展示されている。そこには命を賭して取材する人たちへの敬意が感じられた。これに対し、日本政府や日本社会の反応の中には、政府の外交の邪魔をするなと言わんばかりの発言もあったのは事実だ。

日本社会では、マスメディアだけでなく、守るべき自由とは何かについての真剣な議論があまりなされなくなってきているのではないか。忖度などという言葉が流行するのも、そのいい証拠である。

命を賭してまで自由を守るという気持ちには、誰もがなれるものではないが、長い物には巻かれろの姿勢が行きつく先は何か。それを想像したければ、日本が20世紀に経験したことを振り返るだけでも十分な材料がある。