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民主主義を支えるもの 人格の尊厳説く宗教の役割

2017年3月15日付 中外日報(社説)

文明圏には誕生、成長、衰退があり、また異種文明との接触、抗争があり、それを受けて子文明の生成があることを論じて壮大な歴史観を展開したトインビーは、後発文明が先進文明と接触した場合に起こる変動を語っている。

それによると、接触の局面には征服から同化、共存に至る諸相があるが、一般に後発文明の側に起こる社会変動として、まず軍備の増強、次いで軍備を支える経済の成長が求められる。さらに経済秩序を支える政治の改革がなされ、抗争を克服し平和をもたらす文化が発展し、最後に文化を支える宗教が見いだされるという。

この歩みは一般論だから必然性はないし、発展も一筋縄ではいかないが、このような変動は、少なくとも部分的に第2次世界大戦後のソ連や中国の歴史などに見られる。

欧米文化と接触した明治維新以降の我が国でも軍事、経済、文化、宗教の強化が軍事中心の民族主義的な仕方で起こった。それが敗戦で崩壊した後、経済中心の復興がなされ、体制と反体制の対決という形で政治への関心が高まったが、バブル崩壊とソ連圏解体がほぼ同時期に起こると、統一的な方向が失われたように見える。そして健全な経済と政治を支えるのは実は文化であり、文化の底には宗教があることは無視ないし忘却されている。

しかし、例えば民主主義が正当に機能するためには高度の文化つまり知性と倫理性が必要なのである。それは近代世界の諸事件が示す通りだ。元来、民主主義は多数者の利益を優先させる制度ではなく、各人がおのおのの立場で自由に社会が赴くべき方向を考え、議論を尽くした上で、最も説得力がある良識的な政策が選ばれるという仕組みのものであった。

民主主義の欠点は、最初にそれをつくり上げたアテネにおいても知られていた。だからプラトンは衆愚政治に陥りやすい民主主義よりも賢人王の独裁をよしとしたのである。しかし複雑な社会の運営は到底ひとりの賢人王の手に負えるものではなく、歴史はたとえ衆愚的であろうとも民主制は独裁制に勝ることを示している。

とはいえ、民主制が健全に機能するためには高度の知性と倫理性が必要なことに変わりはない。そしてその根底には強欲を抑制し、差別をなくして、人格の尊厳を説く宗教がなければならない。

現代でこそ宗教の復権が求められているのである。宗教家は自信を持つべきだ。しかしそのためには伝統に拘束されて現代性を失っている宗教の自己改革が必要であることを忘れてはなるまい。