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息長い学術行政に 目先の勘定にとらわれず

2016年12月21日付 中外日報(社説)

ある新聞の川柳欄に「フルハシとユカワに沸いた敗戦後」という句があった。水泳の古橋広之進選手の世界新記録と、湯川秀樹博士のノーベル賞が、戦後の人心を明るくしたとの回想だ。

湯川博士の受賞を機に学術振興の弾みがつき、国公立の総合大が急増した。ある大学で、教官の定年を何歳に定めるかが論議された。理科系の教授は、湯川博士が若くして中間子論を提唱したことから、低年齢とするよう主張したのに対し、文科系の教授は、70歳になってやっと一人前という領域があるとして、高年齢とすることを望んだと伝えられる。

ある時、別の国立大の周辺で聞いた話だ。「あの大学は、年度替わりになると、まだ使えるテーブルやソファを惜しげもなく捨てる。もったいない」と。

事務局長に問いただすと、頭を下げた。「文部省(当時)から備品費が割り当てられる。使わないと翌年度から削られる。やむを得ず学長室や学部長室の応接セットを順繰り更新しています」

だが、右肩上がりの時代はいつまでも続かない。国公立大も軒並み独立の行政法人となり、限られた金額でやりくりしなければならなくなった。先日、ある公立大で2人の女性専任講師に出会った。Aさんは活気満々なのに、Bさんは元気がない。

Bさんに理由を尋ねた。「Aさんは指導教授に恵まれ、研究テーマが決まったので、定年までの在職が約束されています。でも私はまだ。業績を示せなければ、5年で解雇されるでしょう」

新聞報道によると、一部民間企業と同じように、経費節減の早道は人件費のカットと見なす大学が多いようだ。全国の国立大では、任期付き教員の割合が6割に達した。定年を迎えた教授の後任を直ちに補充しない大学もあるとか。教授が空席で、研究成果が上がるだろうか。

テーブルやソファを捨てるどころか、カーテンの取り換えもままならぬ大学もあるらしい。

文部科学省から各国立大に支給される研究費「運営費交付金」は年々減額傾向にある。目先の利益につながらない基礎研究には、企業の協力が期待できない。今年のノーベル賞受賞者・大隅良典博士は11月下旬の講演で、日本の基礎研究の危機的状況を訴えた。

最近のノーベル賞受賞者を見ると、小柴昌俊博士の場合のように長年の地道な観測の積み重ねが評価される例が増えている。理科系の学者にも“年功”が必要な時代だ。目先のソロバン勘定にとらわれない学術行政が期待される。