ニュース画像
参列者が念仏を称える中、伊藤門主は1292霊の法名が記された御回向帳を1枚ずつ手繰った
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

TPPのとん挫 グローバル化の限界

2016年12月14日付 中外日報(社説)

働く現場で人間疎外に苦しむ労働者を昔は「歯車」と言った。だが、歯車がないと機械が動かないから、それなりに大事にされた。今は「燃料」と表現するそうである。燃え尽きたら終わり。

過労死・自死やうつ症状の急増に象徴される企業間競争の激化、ストレス社会の大きな要因はグローバル化にあるとされる。貿易や人、カネの移動の自由化で雇用も失われ、賃金は上がらず、格差が拡大する。人は消耗品扱いだ。

米国大統領選でトランプ氏は、自由化で疲弊する米国中西部の白人労働者層に焦点を当て自由化最先端のTPP(環太平洋経済連携協定)を攻撃、排外主義を煽ったことで勝利を得たという。その結果、安倍政権がこだわるTPPは事実上崩壊したが、国会でTPP関連法案を強行採決したばかりに米国の政権交代後、さらに深刻な外交・交易問題として蒸し返されてくるのは必至とみられる。

TPPは、キーワードが多国籍企業といわれるほど大企業に都合の良い仕組みとされる。協定の詳細は情報開示されず不明だが、社会的な正義・公正さと環境への配慮が乏しいといわれるのはそのためか。海外投資家の利益を優先するルールで、一例だが地域の学校給食の地産地消まで危ぶまれるという。

安倍政権は中国の経済、軍事的脅威に日米同盟の強化で対抗する考え方に傾く。その弱みを突かれ農業、医療・保険や食の安全など多岐にわたり譲歩を迫られた――と懸念する人が多い。

だが、それでもトランプ氏は米国に不利と考えているようだ。善悪より損得で判断するという氏が国会で強行採決までした日本に、より一層米国に有利な交易を求めてくると構えない方がおかしい。

多国間交渉のTPPは、各国がそれぞれ得意分野に集中し、足りない分は輸入した方が得という比較優位の思想に立つ。日本は製造業に特化し農業を軽んじるが、そもそもその思想自体が弱肉強食につながり、聖書の「迷い出た羊」の例え話を引くまでもなく、宗教的な感性に反する。資本が、人の幸せより短期的な利益を追求する近年のグローバル化・自由化路線は、持続し得るはずがない。

あまり知られていないが、2014年は国連「国際家族農業年」だった。大規模農業に対して環境と人にやさしい家族農業が持つ、市場原理で測れない様々な価値を再評価し、地球上から飢餓もなくすという狙い。日本農業の美しい棚田や里山風景と重なる。農業は資本主義以前からあった人の営みであることを改めて思い知る。