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日本が反対票とは 被爆者の心情を見直せ

2016年11月16日付 中外日報(社説)

バラク・フセイン・オバマ氏が5月27日、現職の米大統領として初めて広島を訪問したことについて、1953(昭和28)年生まれの女性作家は、要旨次のような論評を雑誌に掲載した。

「広島は抗議行動どころか、歓迎ムード一色だった。オバマ氏の広島訪問の風景は、この国において、原爆を落とされたことの怒りや苦しみが、もはや完全に風化したことを告げるものだ」

戦争体験なき世代からすれば、確かにそのような見方もできるだろう。しかし被爆者の心境は、簡単に割り切れるだろうか。

71年後の今も、広島・長崎の被爆者が怒りを忘れているはずはない。その半面、肉親の最期の姿を思い出したくないという感情も働く。さらには同僚や級友に死に後れたという後ろめたさも。

そんな複雑な心境にある時、オバマ氏が、手作りの折り鶴を携えて原爆資料館を訪れた。さらに広島を離れる直前に、原爆ドームに続いて「原爆の子の像」を仰ぎ見ている。被爆10年後の原爆症発病で幼い命を奪われた佐々木禎子さんを偲ぶ姿勢を示したのだ。そのことで心に救いを感じた広島市民は少なくなかった。

その日から5カ月を経た10月27日。国連総会第1委員会(軍縮)は、核兵器禁止条約実現に向けた交渉を2017年に開始するよう求めた決議案を、賛成多数で採択した。だが唯一の被爆国である日本は、賛成どころか、反対票を投じたという。

その理由について岸田文雄外相は「核を持つ国と持たない国との対立を助長する内容の決議案だったから」と説明している。核兵器廃絶合意への橋渡し役を自任するのなら、修正案を出すとか、棄権するなどの選択はできなかったのだろうか。

表決の直前に米国は、日本をはじめ軍事同盟を結んでいる諸国に対し、棄権でなく、反対票を投じるよう要請したという。米国の核の傘に守られている日本は、それに従わざるを得なかった。これで常任理事国入りを目指す資格があるといえるのか。

これが、手作りの折り鶴を広島に残したオバマ氏の率いる米国政府の外交であり、そのオバマ氏を「原爆の子の像」の前に案内した安倍晋三首相、岸田外相の政治の現実である。

8月5日付本欄では「妹が原爆で死んだ。その一言を絞り出すのがつらい」という被爆者の声を紹介した。政治家も、文筆に携わる作家も、単眼的に見ることなく、複眼的な視野で広島・長崎のこころを見据えてほしい。