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生前退位の問題 お言葉が示す「象徴」の重さ

2016年8月10日付 中外日報(社説)

天皇陛下が8日、ビデオメッセージを通じて「生前退位」問題について語られた。高齢による体力低下で象徴としての務めを果たすことが難しくなってきたとの考えを示された。日本国憲法に規定される「象徴」として、いかにあるべきかを深くお考えになってきたことが改めて「お言葉」を通じて伝わり、極めて印象的だった。

陛下が生前退位の意向を示されたという7月13日のNHKの報道には、マスメディアが一斉に反応した。本紙(同月15日付)でも皇室ゆかりの寺院関係者の「ご意思の尊重」を希望するコメントを紹介しているが、このメッセージを聞いて陛下のお考えとこれまでの公務に対するご姿勢に共鳴した宗教者はさらに増えたことだろう。

ただ、天皇の「生前退位」となると明治以降初めてで、政治的にやはり微妙な問題である。存命中に天皇位を退くのは単に「退位」あるいは「譲位」とするのが歴史的に定着した表現だ。江戸時代までは譲位して太上天皇となり、上皇や出家して法皇と称した例は珍しくない。ここで「生前」を冠して、多少の違和感を与えたところには微妙さの一端が示されている。

明治維新から太平洋戦争の敗戦までの天皇制は、日本の政治構造の柱として、それ以前の時代と異質な部分が多かった。1889年成立の旧皇室典範には「天皇崩スルトキハ皇嗣卽チ踐祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」とあり、生前退位の可能性を排している。ここに特別な政治的配慮が強く働いていたのは明らかだ。「終身在位」の制度化は天皇制の長い歴史の中で特殊な一時期のものだが、現在の皇室典範もこれを受け継いでいる。

政府見解もこれまで「生前退位」に否定的だった。退位を認めると本人の意思に反した「退位の強制」が行われる可能性なども議論され、そのことをいま改めて指摘する報道もある。しかし、明治憲法の君主制度や自民党改憲草案の元首制ならともかく、現行憲法の象徴天皇制の下では「強制」がどのような意味を持つのだろうか。

天皇制という制度自体、社会の変化を超越して存続してきたわけではない。天皇皇后両陛下のお考えを踏まえた400年ぶりの「火葬の復活」とともに、生前退位は歴史的伝統と現代的合理性を併せ持つ対応であるようにも見える。

安倍晋三総理は天皇陛下のご発言を「重く受け止める」としており、「生前退位」の法整備は早急に進められるだろう。その中で、私たちは、陛下が繰り返し言及された「象徴」の意味を真摯に考える必要があるのではないか。